やっぱすっきゃねん!Ulast-11
「すいません。スピードに慣れてなくて…」
「こっちこそ、つい力を入れ過ぎて…最初ですから、軽く投げます」
再びマウンドに向かいながら、一哉は永井に合図を送った。
「…一番は…佳代。行ってこい」
「ハ、ハイッ!」
ヘルメットを被り、左打席の一番後で構える。一哉はゆっくりとしたフォームから軽く投げた。
タイミングを合わせて踏み出す佳代。
ボールは低目から浮き上がり葛城のミットに吸い込まれた。
「どうしたの?真ん中よ」
「ずいぶんホップしますね…」
足場を均し、ほんのわずかホーム寄りに構え直す。
2球目。同じ真ん中。ボールの軌道を予想して、上面に当てるつもりで振り出した。
〈パシンッ〉
(グッ…当たった瞬間、戻された…)
鈍い打球音を残し、ボールは力無く左に上がった。
サードを守る1年生がファウルエリアで掴んだ。
(思ったよりホップするし、勢いが凄いや…)
「佳代。最後までよく見て、強く叩くんだ」
「ハ、ハイッ!」
一哉のアドバイスを受けての2打席目。
1球目は真ん中やや外寄り。
(…ヨシッ!)
佳代は踏み込んで強振する。
だが、ボールはシュート回転してさらに外へと流れ、空振りしてしまった。
「…何、今の球…」
佳代はよりホーム近くに足場を変えた。
一哉はその変化を見逃さず、2球目をイン・コース低目に投げた。
(今度こそ!)
思い切り叩いた。その瞬間、佳代の右足に激痛が走る。
「ギャンッ!」
打球が右足の甲に当たり、佳代はもんどり打って倒れ込んだ。
「だ、大丈夫?」
「…痛ぅ…だ、大丈夫です…」
ようやく起き上がり、ヒザの曲げ伸ばしを繰り返して再び打席に入る。
その表情はまだ痛そうだ。
3球目をようやく強く叩き、センター前に打ち返した。
結局、3回打席に立ったが、ヒット性の当たりはその1本だけだった。