還らざる日々〜Prologue〜-1
「こういう順番の方が良いんじゃねえか?」
一生は先輩からのメモを受け取り、内容をチェックする。
「そうですね。この方が流れがスムーズになりますね。明日からやってみます」
「じゃあオレ上がるから」
「ハイ!ありがとうございました」
先輩は退社して行った。一生はひとりで機器のシステム・チェックを繰り返す。
彼はふと、財布の札入れから大事に畳んだ1枚の紙切れを取り出し、それを広げて眺める。
心なしか柔和な顔をして。
『還らざる日々』
〈都田尚美〉との出来事から1週間が経った。
一生は紙切れを眺めては連絡しようか、止めようかと思案していた。
時刻は午後8時過ぎ。
一生は意を決して受話器を取ると、ダイヤルをプッシュした。コール音が耳に流れる。
緊張からか、急激に口の内が渇くのを感じる。一生はコーヒーをひと口飲み込んだ。
〈カチャ〉という接続音の後に、女性の声が聞こえてくる。
「…はい都田です」
確かに彼女の声だ。一生はどう切り出そうかと迷っていた。
「あの、もしもし?」
結局、なんの考えも出ないまま口を開いた。
「突然、夜分にすいません。先日、コンパで一緒だった浅井と申しますが…」
「…浅井さん…ですか?」
「えーっ、途中で2人で抜け出して飲みに行った…」
一生の説明が終らぬうちに、彼女の声が弾けた。
「あぁーーっ!!伊丹空港!」
「…そう!オレだよ」
「私、毎日待ってたんよ!いつ電話して来るんやろて!
それが、いーっこも掛ってきいひんから嫌われたかと思った」
「ゴメン、ゴメン。オレも朝まで付き合わせた上、ひどい目に合わせたから嫌ってるんじゃないかと…ちょっと掛け難かった。
改めて、先日は楽しかった。ありがとう」
「そんな事言わんといて!恥ずかしい!あの後、すっごい迷惑かけたて自分が自分でイヤになったんやから」
一生は電話越しで軽く笑った。