還らざる日々〜Prologue〜-9
6年ぶりに訪れた伝説のライブハウスは、あの頃と全く変わる事なく一生の目に写った。
入口のドアを開けると受付があり、そこでチケットを購入する。
一生は2,000円払って2枚購入すると、受付の左手の階段を地下へと降りたところにドアがあり、それを開けるとライヴ会場だ。
畳2枚を横につなげた位のステージと2人掛のテーブルが10セット。立ち見を入れても、30人も入れば満杯な小さな店。
一生は尚美を連れて真ん中のテーブルに座った。すでに5〜6組のテーブルは埋まっている。
照明はかなり暗い。ウェイターが寄って来て、慣れた手つきでチケットの半券をモギる。
「チケット1枚でコーヒー、紅茶がサービスになってますが…」
ウェイターの注文を2人は断わり水を貰った。喫茶店を出た後、時間潰しに食事をしたばかりだったからだ。
周りを見回しながら、尚美が耳元で呟いた。
「アンタ慣れてるようやけど、常連なん?」
「ちょっと昔な」
一生は余計な事は言わなかった。
「でも、アタシ、もっと大っきいトコかと思ってた」
「一時はツブれてたんだ。ここ最近、復活したんだ…」
尚美が何か言おうとした途端、照明が一気に落ちた。
瞬間、悲鳴を上げそうになったが、一生の〈始まるんだ〉という声で落ち着いた。
ふと天井を見上げると小さな明かりが星のように輝いている。
正面からのピン・スポットで演奏者が紹介され、拍手がわき起こる。
1グループの持ち時間は約15分。ソロもあればデュオやバンドもあり、皆がオリジナルを熱唱していた。
だが、オーディエンス(聴き手)の反応はハッキリしていた。
自分の琴線に触れた者に対しては大きな拍手を、そうでない者は静寂という冷淡な反応。
最後の演奏を聴いて、店を出たのは午後8時を少し回っていた。
尚美は興奮醒めやらぬようで、演奏者の批評を一生に聞かせていた。
「初めて来たけどオモロかった。ありがとう!」
「お礼を言うのは、ちょっと早いんじゃないか?」
尚美は何の事やら分からずキョトンとしている。
「忘れたのか!日〇の映画」
「ああーー!!すっかり忘れとった」
「止めとくか?」
「いや!行く」
「まだ時間が早いな。軽く飲んで行こうか…」
一生が酒を飲むジェスチャーを見せる。尚美は〈ヨシ、行こ!〉と腕に絡み付いてきた。
2人は〇〇へと向かって歩き出した。