還らざる日々〜Prologue〜-7
「だったらここでビデオを見ながらゴハン食べたい!」
つまり、彼女は一生に自宅からビデオデッキを持って来てくれと言っているのだ。
「ビデオデッキか…多分、バッグに入るだろうから大丈夫だろう」
聡美は喜びの声をあげた。
「じゃあ近所のビデオ店に行ってビデオ借りよう!私、場所知ってるから」
一生は、聡美が嬉しそうに話す時に身振り手振りが大きくなる仕草が好きだった。
「よし!じゃオレはすき焼きを作ってやるよ」
そこから聡美は一方的に喋り出した。
学校で誰それとペアを組んで実習をした時の話や、あの先生の授業は楽しいが、この先生は退屈だとか、ジェスチャーを混じえての話は、一生を楽しませてくれる。
遅い夕食を終えると、今度は聡美がキッチンに入る。食器を洗うためだ。
一生はその間、余った料理をラップにくるんだり、食材を新聞紙に包んで冷蔵庫に入れていた。
それから、一生が買ってきた缶コーヒーを2人で飲んだ。
聡美が仕事に出掛ける時刻が迫っている。
一生もジャケットをはおり、ヘルメットを持って帰り仕度を始めた。
「じゃあ、気をつけてな…」
「うん。土曜日楽しみにしてる」
一生は口元に笑みを浮かべた。
「ああ、ビデオデッキとすき焼きだったな」
そう言って聡美の肩に手を乗せ、引き寄せると軽く唇を重ねた。
一生はしばらく聡美の目を見つめた。
そして、ゆっくりとその場を離れてバイクに跨った。ヘルメットを被り、バイクのエンジンを掛ける。
ギアを入れると、聡美の方は振り向かずに右手を軽く上げ、その場を走り去って行った。
───
翌土曜日の午後。一生は〇〇駅近くの喫茶店に1人で居た。
ここに午後3時に待ち合わせしようと、尚美からの電話があったためだ。
初めてという事もあり、一生は待ち合わせより少し早く喫茶店で待っていた。
しかし、今は3時20分。待たせるにしても遅すぎる。
彼の中では、約束事は守るのが当たり前だった。
故に自身が約束して守れない場合は、連絡をするが当然という考え方をしていた。
時刻は3時半となった。
一生は席を立って帰ろうと思った時、尚美が入って来た。
かなり荒い息遣いだ。中を見回して一生を見付けると、軽く右手を振って彼のテーブルに座った。