還らざる日々〜Prologue〜-6
聡美の住まいは玄関を入った右手に小さなバスルームが有り、左手には小さなキッチン。
独り暮らしらしく、揃えた機材も小さく最小限だ。
そこから奥が、彼女のダイニング兼ベットルーム兼のリビングだ。
広さは6畳程度で、テレビやテーブルに小さな物入れがある。
全体的に殺風景だったが、そこかしこに女性らしく置物や飾り物が散りばめられている。
一生はキッチンに向かうと料理を始めた。
トンカツをトースターで温め直しながら、そのとなりのガスレンジで、豚肉にキャベツ、ニラ、モヤシ、玉ねぎを使った野菜炒めを作る。
最後はワカメと玉ねぎ、ゴマと玉子を使った中華スープ。
一生は、手際良く全てを30分あまりで作ってしまった。
その間、聡美は食器をテーブルに並べ、キッチンの隅で彼の後姿をジッと眺めていた。
これは一生が料理をする時、お互いの決まり事だった。
つきあい始めた頃、彼女が一生の手伝いをしようとした。
すると、声を荒げて〈さわるな〉と言ってしまったのだ。
聡美は声に反応して身を縮み込ませた。
料理が出来上がり、食べる時になり一生が頭を下げた。
「さっきはスマン。オレ、料理とか野球とか…まぁ他にも有るけど、やりだすと、人が変わってしまうんだ。だから、自分の段取りでやってる時に手を出されると…スマン…」
それ以来、聡美は一生が料理を作るのを黙って眺めるようにしていた。
彼女は、料理を作る姿が好きだった。
「そろそろゴハン注いでて」
「ハ、ハイッ!」
一生の声で我に返った聡美は、いそいそと茶碗にゴハンを注いで、テーブルへと運ぶ。
ちょうど時を同じくして料理が運ばれて来た。
「じゃあ、いただきます」
2人がテーブルの対面に座り手を合わせる。
それから一生が皿に野菜炒めを取り分けた。
「オマエは今から仕事だから、野菜をたくさん食べろ」
そして夕食が始まった。聡美は一生が作った料理を〈美味しい〉と言って食べ始めた。
が、当の本人は、
「う〜ん。80点くらいかな…」
今ひとつと言った表情だ。
「仕事はどう?学校と一緒じゃ辛くないか…」
聡美は苦笑いを浮かべる。
「うん…確かにちょっとね。お昼を食べてからが眠くて。でも、あと半年だから…」
「休みの日は?」
「土曜日の朝から休みだけどダメ。朝から溜った洗濯やって、夕方までずっと寝てる」
「さ来週の土曜日、映画でも行くか?それから美味いモンでも食いに…」
聡美の顔が明るく輝いた。