還らざる日々〜Prologue〜-5
「なんだ!そういう理由じゃ仕方がないな。じゃ頑張れよ」
一生はポカンとして言葉を失った。
実直な性格の小門だから、少しは怒られるだろうと覚悟していたからだ。
彼の戸惑いを察したのか、小門が語った。
「仕事は何とかするから心配するな。キミ達、若い者にとって恋人は特別だろうからね…」
そう言うと片目を瞑った。
「まぁ、毎日やられちゃ困るがな」
一生は小門の配慮に感謝し、深々と頭を下げた。
そして、急ぎの仕事がスムーズに流れるよう、他の業務を必死にこなした。
「では、お先に失礼します」
午後5時半。一生は事務所の皆にそう言うと、足早に聡美のもとへと向かった。
───
一生のバイクがスーパーの駐車場に止まった。
これから向かう聡美に食べさせる料理の食材を買いに訪れたのだ。
彼は幼い頃からの料理好きが高じて、時々だが自分で作ったりしていた。
そのためか食材に関しても、肉や魚は〇〇ストアーが良いとか、野菜はスーパー〇〇が新鮮などと食材ごとに買う店を決めているほどの徹底ぶりだった。
そして訪れたスーパー。ここは聡美のアパートから近いこともあり、付き合い始めた頃から利用していた。
ひと通り見た感じでは魚、野菜とも普通だったが、肉屋のとなりで揚げていたトンカツを見て驚いた。
それは、非常に手間を掛けられていた。ロースの脂身には包丁を入れ、赤身もクラッシャーで叩いて柔らかくし、揚げ油にラードを用いて二度揚げされていた。
一生は真っ先に飛び付いた。値は張ったが、それに見合うほどの味だった。
以来、彼女の住まいへ行く時はよく買っていた。
一生はいつものトンカツを最後に買い、それらをリュックに詰め込み再びバイクに跨ると、聡美のアパートへと向かった。
「いらっしゃい!」
「ゴメン。ちょっと遅くなっちまって…」
一生は、買込んだ食材をリュックから取り出し聡美に見せた。
「さっ、メシにしよう!すぐ作るから」
一生は玄関から部屋に入った。