還らざる日々〜Prologue〜-12
「じゃあ、希望の2つ目に行きましょか?」
一生はワザと改まった口調で尚美に訊いた。
「ウチ楽しみやってん。どんな映画やの?」
一生は呆気に取られた。
「どんなて…男女の営みを題材にした映画や。オマエ知らんのか?」
「何となくは分かるけど…どんなストーリーかなって」
「まっ、色々や。見れば分かるわ」
2人は映画館のある方向へと歩きだした。
2人が飲んだ〇形〇小路からは、徒歩で5〜6分くらいのところに映画館はある。
入口には様々なタイトルが書かれたポスターが貼られていた。
窓口でチケットを買うと、ホールへ向かう通路の途中に立っている案内係にチケットを渡した。
彼は半券をモギると残りの半券を一生に渡した。
「この奥や」
一生がそう言って入口のドアーに手を掛けた。その途端、尚美が彼の腕に両手でしがみ付いた。
力が入っているせいか、爪が一生の腕にくい込む。彼は彼女の手を軽く握った。
「心配せんかてエエから…」
ドアーを開けて中に入った。席は1/3程が埋まっていた。
一生は周りを見渡し、人が周りにいない場所を見付けるとソコに尚美を誘導した。
スクリーンは1本目の途中だった。
通常、普通の映画なら1本かせいぜい同時上映で2本だが、日〇の映画はほとんど3本立て構成で上映されている。
尚美は見ている最中、ずっと一生の手を握っていた。少し汗ばんでいる。
一生はスクリーンを眺めながら、退屈していた。
彼はあまりこういう映画は好きではなかった。
〈人がセックスするのを見て何がオモロイねん!こんなモンはするモンで観るモンと違う〉
そう思っていた。
2本目が終わった後、一生は時計を見た。午前零時を回っていた。
「そろそろ帰ろか?」
尚美の目はスクリーンに釘付けだった。
一生は再度呼び掛けると、ようやく我に返った。
だが、その目は、まだボーッとしている。
「な、何?」
「帰ろう言うてんのや…」
尚美は頷くと、また一生にしがみ付くようにして映画館を後にした。
タクシー乗り場までの道。尚美は俯き、黙って歩いてる。
先ほどまでのように、一生に絡む事なく手さえも交さずに。
〈こりゃ刺激が強過ぎたかな〉
と、一生は思っていた。