還らざる日々〜Prologue〜-10
一生と尚美は、ライブハウスから15分ほど歩いて日〇の映画館のある〇〇に着いた。
繁華街。スナックやクラブ、居酒屋やラーメン屋など飲食店が2,000件は建ち並ぶ眠らない街。
一生は、街の中を進みながら尚美に尋ねる。
「飲む店だけど、焼き鳥は?」
「うん。好きや」
「この道から奥に入った場所に、美味い店が有るんだ」
そう言って大通りから脇道へ入り、更に小道へ。
幅3メートルにも満たない小さな路地の両サイドに、数々の飲食店が並んでいる。
見上げれば、3メートルほどの高さに両サイドを渡して看板が横に架けられ〈〇形〇小路〉と書かれていた。
小路に入って30メートル位の所で、一生は右手にある店を指した。
〈焼き鳥 千秋〉と書かれた煤ぼけたノレンが掛けてある。
入口のガラス戸を開けて中に入るとカウンターのみの店で、10人も入れば満席だ。幸い、客は6人だった。
「2人、いいですか?」
一生の言葉に客達はお互いに席を詰めて、席を開けてくれた。
彼は〈ありがとうございます〉と周りに言うと、開いた席に尚美と腰掛けた。
生ビールと焼き物を注文し、まずはビールが運ばれてきた。
「何に乾杯するん?」
尚美が訊いた。一生はジョッキを持ちながら、しばし考え、
「ウ〜ン、そうだな。再会を祝して…」
声に合わせて〈カチャン〉とジョッキが重なる音を立てた。
2人共ジョッキを傾ける。喉が渇いていたのか、潤すようにビールを流し込む。
「フゥ〜ッ!」
ジョッキをカウンターに置いた。一生は半分、尚美は1/3ほどを飲んでいる。
頃合をみて注文した料理が運ばれてきた。豚バラ、鳥モモ、エビ、貝柱などが大皿に盛られている。
一生はその大皿を尚美の方へ寄せる。〈食べてみろ〉と言いたげだ。
尚美が豚バラを一口食べた。
「あ、これ美味しい」
「そうだろ!ここのは素材が良いんだ」
尚美の反応に、一生は終始笑顔だ。
「特にオススメは、この鳥モモ。地鶏なんだ」
一生はハシを使って器用にモモ肉を割いていく。
「……ジドリ?」
「宮崎地鶏って言ってな、その辺のと種類が違うニワトリを、昔ながらの飼育をしてるんだ」
尚美は、その地鶏肉を頬張った。確かに臭みもなく、肉そのものに弾力があり、噛むほどに旨味が染み出てくる。