一人舞台-1
部屋の中がじりじりと暑い。蝉の鳴き声が耳の中でこだまする。
目の奥で青空が浮かんだ。その青空の下で向日葵が笑っている。夏になると何時もこの残像が浮かぶ。
瞳を開けると俺はゴミの中に埋もれていた。何時から部屋を掃除してないんだろ、もう忘れた。足の踏み場も無いくらい散乱した食べカス、衣類、くしゃくしゃに丸めた紙、そして小説。
ここは地獄だな、虫でも湧いてるんじゃないのか。いや、虫はこの俺か。そう思い、俺はベットからのっそり起き上がりながら自嘲した。無精髭が指先に当たる、そういや何日前に髭を剃ったかな……ふっとため息が漏れた時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「仁志」
もう見飽きた顔だった。息を荒げて現れた男は黒の生地に派手な柄を描いたシャツを着て、手には茶封筒やら原稿やらの束を抱えている。
「中嶋」
俺は男の名を口にした。
「どうして今年の新人賞、逃したんだ!」
中嶋は余白を与えず、荒々しく俺に詰め寄ってくる。抱えていた原稿の何枚かが落ちた。
「もう書くのは止めたんだ。分かってるだろう」
「いつまで逃げてんだ。大学辞めてもう一年だ。一年、ここで何やってたんだ? このまま行くつもりか?」
俺はいつもの中嶋の剣幕にそっぽを向き煙草に火をつける。
「一昨年の……お前の小説が最終選考に残った日が最後だ。お前が書いてる所を見たのは。みんなお前の才能を認めてるんだぞ」
「昔の栄光だ。中嶋、いつまでそんなもんに縋ってんだ」
俺は嘲笑うように煙を吐き出した。中嶋は一年前、俺が大学を辞めてから毎日のように家に来てはこうして説得を繰り返す。俺にとってはもう忘れたい、過去の記憶。