一人舞台-7
広い闇の中に一つ、また一つと花火が咲き乱れる。中嶋が帰った後、俺は近所にある空き地で呆然と空を見上げていた。 朋子からもらったものが俺に生きる事を教えてくれた。なのに、あの日朋子を失くしてからの俺は呼吸をする事すら忘れてしまった。
「朋子」
騙されたね、仁志。そう言っておどけて俺の前に姿を見せる朋子。
「朋子、愛してる」
あたしもだよ。仁志のこと、誰よりも愛してる。観客席でずっと見ていた少女はあたしなんだよ。そう言われた気がした。
「もっと早くに気付くべきだった。お前は、いつも俺を見ていてくれてたのに……こんなに近くにいたのに」
あたしはずっと仁志の傍にいるよ。抱き合ったり、キスしたり、そんなのはできないけど……寂しいけど、でもいつも仁志を見つめているよ。ずっとずっと、仁志の心の中で生きているよ。
涙が零れる。手に持っていた原稿が風に流されてパラパラとめくれる。
「そうだな……そうだったな」
俺は苦笑いを浮かべて空に視線を向けた。そんな俺を訝るように、花模様の浴衣を着た少女と、Tシャツにジーンズ姿の少年が顔を覗き込んでいく。
ジャージのポケットに入れていた携帯が突然震えだした。中嶋からだった。携帯を耳に当て顔を上げると、朋子の姿は消えていた。
俺は息を整え、中嶋が話終わるのを待ってから口を開いた。
「中嶋、俺……次の新人賞応募してみるよ。俺の舞台を……見てくれている観客がいるんだ」
電話の向こうで中嶋が、教授と大声で叫んでいる。俺は右手にある原稿を自然と握っていた。
空き地の側にある向日葵が夏の音色と共に揺れながら優しく笑っていた。