一人舞台-2
パンパンと、花火の打ち上がる音がした。ああ、そうか。今日は近所で祭がある。
「縋ってんのはお前だろ?」
そう言って中嶋は抱えていた原稿を俺の膝の上に投げた。表紙の粗筋や題名よりも早く、作者名が目に入った。
『新田朋子』
俺の心を掴んで離さない、名前を口にするだけで苦しくなる。誰よりも愛していたのに、誰よりも傷つけてしまった人の名前。
「なんでこんなもん」
俺は向かい合う中嶋を見据えた。
「部室で見つけた。今更、とお前は言うと思ったがこの際お前の為に見せる事にした」
淡々とした口調でこの小説とのいきさつを説明する中嶋。しかしその言葉も途中から俺の耳には届いていなかった。
そう、今更なんだ……彼女の事は。もう二年も前の記憶等、人は消せるものなんだ。実際俺がそうだ。だけど、彼女だけは……彼女を消す事はできない。