loopU-8
遥もこんな風に鳴くんだろうか。こんな快楽に溶けきった顔をして。
目の前で喘ぐ彼女と遥が僕の中で錯綜する。
いつも誰かと寝る時にこうやって遥と重ねている卑劣な自分がいる。
そしてそれを掻き消すために快楽に逃げる自分も。
触れられない遥と、開いていく距離を埋めることができないこの現実を吐き出そうとしている。
今を掻き消すために、名前も知らない女の子に体を重ねる僕は最低だ。
そんな現実にしたのは僕なのに、それを望んでいたのは僕なのにそれに苦しむ僕は勝手だ。
頭ではわかっているけれど、僕はこのループから逃げることができない。
「…んっあぁ…!由紀ちゃんもっとぉ!」
僕に背を向けた彼女に僕は何度も腰を打ちつける。
暗闇の中で汗ばんだ白い背中がぼんやりと浮かび上がっている。
肌と肌のぶつかる乾いた音と彼女の嬌声と嫌らしい水音、全てが混ざり合って耳の中で響く。
僕も息が切れ切れになって短く息を吐きながら、彼女の手をぐっと引き寄せながらさらに奥へ奥へと打ちつける。
「あぁ…っ!そこぉ…ぉ」
彼女が一段と声をあげたところに僕は集中してラストスパートをかける。
崩れ落ちそうになる腰を掴んでは無理やり立たせながら、乱暴に。
僕の頭の中も心の中も全部消えてなくなれば、と狡い事を考えながら。
「あっぁ…いっちゃう…!いっちゃうよぉ…っ!!」
「…っ…」
「…由紀ちゃ…んっ!」
彼女が僕の名前を何度も呼びながら喘ぎ、ぎゅっと締め付けて果てると同時に僕も彼女からずるりと引き抜いて、白い背中に欲望も全て吐き出した。
行為の後の独特の気だるさで立つ事ができずに僕はその場にずるずると座り込んだ。
彼女も果てると同時にそのまま玄関に倒れ込んで目を閉じたまま動かずにいたけれど、しばらくするとアルコールも手伝ってか、深い寝息を立て始めた。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
乱れた息が止まらない。
ひどく疲れて泥の中に埋もれたように体は動こうとしない。
全てを吐き出すために体を重ねるのに、終わった後の僕の中はいつもざらざらとしていて、残るものは嫌悪感だけだ。
僕は一体何を求めているんだろう。
暗闇の中でぼんやりする頭を抱えてうずくまりながら僕はいつもこうして考える。
格好つけてるわけじゃないんだ。
ただ本当に君が大切で失いたくない僕は、その方法がわからずに怯えて何もできずに、気づくと結局君が遠ざかっただけだった。
そのやわさと現実を知って、うなだれているだけの僕にはどちらにしろ、結局何も残らなかった。
あの時と同じだ、と思う。
母を失った幼いあの頃から何一つ僕は変わる事ができずに、同じ場所に佇んでいる。
「…遥…―」
…一人名前を呟いてみる。
僕は初めて…この声が届いて欲しいと思った。
いつの間にか夜が明けて暗闇だった部屋がぼんやりと明るくなり始め、僕はその青白い光を見ながらまた同じ一日が始まるとわかっていても、そう願わずにはいられずに…―そっと目を閉じた。