ヒメゴト〜nothingness〜-1
―――夕方…
陽介と麻衣子は、
お昼休みが終わってから、抜け殻の様に仕事をこなしていた。
終業時間になっても尚、
二人とも持ち場から立ち上がる気力もなく、
ただPCを睨み付けていた。
やがて人気も無くなり、
フロア全体が薄暗く沈んでいった。
おもむろに麻衣子は時計を確認すると、
もう終業時間から二時間も経っていた。
(そろそろ帰らなきゃ…)
重たい身体を引きずり、
更衣室に辿り着く。
ふと、高野美映のロッカーに目をやる。
(西田クンの事…好き…なんだよね…)
ふつふつと沸き上がる感情を、
陽介には悟られまいとしていたが、
行為の最中、
虚無感が拭えずにいた所を見抜かれてしまった。
仕事中は必死に涙を我慢していたが、
空っぽの自分と、
空っぽのこの更衣室が、
尚更涙を誘った。
じんわりと視界が滲み、
やがて涙が頬を伝う。
高野美映のロッカーを睨み付けたまま、
麻衣子はその場に座り込んでしまった。
(西田クンがあたしを抱くのは…、簡単にさせるからでしょ……!命令に従うから……)
事実を認めるのが怖くて、ずっと解っていたのに気付かないフリをしていた。
けどもう認めてしまった以上、
現実から目を背ける事は出来ない。
(それでも………)
陽介が自分に施す愛撫が、的確になればなる程、
歓喜の渦に捕われる。
(西田クンの事…考えただけで……)
不意に昼間の快感がフラッシュバックし、
ビクビク、っと身体が震える。
だらしなく足を投げ出した状態で座り込んでいる麻衣子は、
そっと秘所に手を忍ばせてみる。
ストッキングの上から、
軽く擦っただけで、
背筋に電気が走る。
(…西田クンの事…、こんなに欲しがってる…)
今までの麻衣子なら、
このまま自慰を始めてしまう所だが、
何故だか急に虚しくなってきた。
パッ、と秘所から手を離すと、
大きな溜め息を吐く。
そしてそのまま膝を抱え、肩を震わせ、
声を上げて泣いた…。