ヒメゴト〜nothingness〜-5
「二人で飲み直そーと思ったのに、まだお仕事残ってるんですか?」
「いや…」
不意を突かれて、会話もうまく運べない。
酔いが回ったせいか足元がフラつく。
美映の眩しい程の笑顔に、段々心が動いていた。
「いや、応接間で寝ようかと…」
「え?西田さんのお家ってそんな遠かったですっけ?…じゃあ、しばらく一緒に居ても良いですか?」
「いいけど…、時間大丈夫か?」
「もっと話したかったんですもん…」
美映はそっと腕を絡ませ、上目使いで見つめる。
ドキッ、と陽介の心臓が鳴り、
次第に動悸を早めた。
そしてそのまま、二人は無言で歩き始めた。
―――フロアに着くと…
美映はパッ、と手を離し、一番出口側の明かりだけ付けた。
「たまに此処で寝ちゃうんですか?」
先程見せた表情とは違い、いつもの美映だった。
何故だか陽介はホッ、と胸を撫で下ろす。
「帰るの面倒なときとか…たまにな…」
「ふぅーん。何か誰も居ないフロアって不気味じゃないですかぁ」
そう言って美映はソファに腰を下ろす。
陽介も対面に座り、煙草を取りだし、
慌てて火を付ける。
動揺している姿を必死に隠そうとした。
「あたしもそっちに座ろ」
そう言うと美映は、
陽介の隣にぴったりとくっついて座った。
陽介はどうすることも出来ず、
そのまま固まっていると、美映はコツン、と肩に頭を乗せてきた。
「本当は何悩んでるんですか?」
陽介は答える事が出来ず、煙草をくゆらせるばかりだった。
「あたしじゃ力になれませんか?」
美映は姿勢を起こし、
真っ直ぐに向き直る。
陽介もまた煙草を灰皿に押し付け、
美映を見つめた。
薄暗い中ではあるが、
いつもの美映の表情ではなく、
艶っぽく、
とても綺麗に感じた。