エデン-3
◇
取調べ室で警察官が僕と向かい合う。
「ええ、被害者は原田よし子と加山透。この二人との接点は向かいのアパートに住んでいたという事。トラブルもなけりゃ、知り合いでもなかった。犯行の動機は何かね?」
僕は虚空を見つめる。警官はため息を漏らした。
「これ、君がやったんだよ。覚えてるかい?」
警官は机の上に二枚の写真を置いた。
一つは男が仰向けに倒れていて、何十箇所と刺された後がある。もう一つは女がベットの上で俯けに倒れている。男の写真同様、刺された後が無数にあった。
「君が血痕の付いた包丁を持って、この部屋を出ていく姿を目撃されている。君の部屋からも血痕の付いた同じ型の包丁が検出された」
「刑事さん」
小さな窓から注がれる光りが僕を祝福しているようだった。
「彼女は、どうしていますか?」
僕の言葉に、警官は訝しげな表情を見せた。
「君の言っていた長い黒髪の女性の事だか、あのアパートの住人ではない。被害者の加山透との接点がない事も調べで証明されている」
「君は頭の中に妄想を抱いて、それを現実だと思い込み、向かいのアパートの加山透の部屋にその女性が住んでいると思い込んだ」
愛しい彼女が、僕の目の前で笑いかける。
「違いますよ、刑事さん。これは現実なんです…あの男は浮気をしていた。だから僕が制裁を加えてやったんだ」
「いいかい?彼女は実在しない。君がストーキングしていた女性は君の頭の中で作り上げた人間だ」
この警官は何を言ってるんだ。全く頭の弱い連中ばかりでくだらない。だからこの世の中は駄目になるんだ。
よく見てみろ、ちゃんとそこに居るじゃないか。彼女が――。
僕に手招きして、ここよ、ここよと呼んでいる。僕を導く彼女。私の為に殺してくれてありがとう、と泣く彼女。これからは永遠に一緒ね、と、僕を抱き締める。
ああ、そうさ。これからは永遠に一緒さ。永遠に君とエデンの世界へ。