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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み5 〜MEMORIAL BIRTHDAY〜-6

「紘ちゃん、し、四月から……大阪……?」
 途切れ途切れの言葉を紡ぐ美弥から、紘平は視線を逸らす。
「地獄耳だな」
「やだよ……何で!?何で私以外の人は知ってたのに、私だけ……!!」
 泣き崩れる美弥を見て、紘平は抑えようとした気持ちが溢れ出すのを感じた。
「美弥……」
 腕を伸ばし、華奢な肢体を抱き締める。
「……好きだ……」
「!」
 はは、と紘平は笑った。
「知らせたら自分が辛いから、黙っとこうとしたのにな。結局、コクっちまった……」
「紘ちゃん……」
 美弥は……紘平の体に腕を回す。
「わ、わた、私も……私も……紘ちゃん、好き……」
 紘平は、素直に驚いた。
「マジかよ……」
 別れる直前になってようやく両想いだった事が分かるとは……皮肉にも程がある。
 震える声で『紘ちゃん好き』と繰り返している美弥を、紘平はきつく抱き締めた。
「美弥……」
 呼ばれた美弥は、顔を上げる。
 紘平はぐっと息を詰まらせ、吸い寄せられるように唇を重ねていた。
「……!」
 一瞬体を緊張させた美弥だったが、すぐにほどけて紘平に体を預ける。
「紘ちゃ……!ん……」
 唇が離れたかと思うと、再び重なって来た。
「紘ちゃん……」
 美弥の存在を確かめるように、何度も何度もキスをする。
 甘くて柔らかい唇は、程よい弾力でそれを受け止めた。
「紘ちゃん……好き……」
 美弥は何度も、想いを呟く。


「紘ちゃあん……」
 まなじりから透明な涙を溢れさせながら切ない声で幼馴染みを呼ぶ少女を見て、龍之介は美弥を叩き起こしたくなった。
 胸の中では、どす黒い嫉妬が渦巻いている。
 どうせ明日はお休みだからと龍之介は彩子の許諾を得て寝付いた美弥の隣にいたのだが、その事を少し後悔していた。
 傍にいる事を選択したのは自分自身とはいえ、一体何が悲しくて夢の中で初恋の男の名を呼んでいる恋人の横にいなければならないのだろう。
 しかも唇の動き方からして、キスの再体験をしているらしい。
 歳が歳だけにたぶん、ファーストキス。

 本人に自覚のない夢の中での出来事とはいえ、龍之介はどす黒い嫉妬で身も心も焦げ付いていた。
「美弥さ〜ん……」
 囁いて頬を撫でると、泣いていた美弥の表情が一変する。
 涙が止まり、幸せそうに微笑んだ。
「りゅう……」


 何度も唇を重ねていた相手がいつの間にか紘平から龍之介にすり替わり、合わせて自分の体が十二歳から十六歳に変化したのに違和感を全く感じなかったのは、夢ならではの都合のいい力技だろう。
 美弥はいつものように龍之介の逞しい腕に抱かれ、優しくかつ激しいキスを受けていた。
「美弥……愛してる」
 何度も聞いた事はない囁きを、龍之介は繰り返す。
 美弥はその胸に顔を埋め、幸せを満喫していた。
「りゅうが……好き……愛してる……」
 たとえ紘平が戻ってきたのだとしても、心の中から溢れ出る言葉はただ一つしかない。
 昔はどうであれ、今は高崎龍之介を愛しているのだと。


 翌朝。
 非常にスッキリした気分で、美弥は目を覚ました。
 昨夜は何の前触れもなく初恋の男が地元に帰って来ていたという事実に混乱して泣いてしまったが、よく考えれば迷う事など何もない。
 自分が龍之介に惹かれて愛し、龍之介もまた自分を愛してくれているという事実がある限り。

 ぐいっ

「んきゃあっ!?」
 いきなり横から引っ張られ、ベッドから引きずり落とされた形の美弥は悲鳴を上げる。
「あ、おはよう……」
 自分を抱いている人物に、美弥は挨拶した。
「おはようぢゃない」
 目を充血させた龍之介が、不機嫌な顔をして美弥を抱いている。
「てっきり帰ったかと思ってた……」
 欠伸混じりに、美弥はそう言った。
「だから寝言で紘平の事呼んだのかよぅ」
 美弥が龍之介の顔を見ると、唇を尖らせている。
「……呼んでたの?」
「そりゃもー浴びる程。紘ちゃん好き紘ちゃん好きって」
 その言い方に、美弥は思わず吹き出した。
 何の事はない。
 龍之介、拗ねて妬いているのである。
「ヤキモチ焼き〜」
「ばっ……!」
 顔を赤くして反論しようとした龍之介の唇を、美弥は塞いだ。
 ……自分の唇で。
「私の一番は、りゅうだよ?」
 唇を離し、美弥は言う。
 信じていても拗ねて妬いていた龍之介は、その言葉に喉を詰まらせた。
「他の誰でもない高崎龍之介が、私は一番好き」
「美弥……」
「たとえ紘ちゃんが戻って来ていても、私はりゅうが一番好き」
「……うん」
 龍之介のご機嫌が多少直ったのを感じ、美弥は微笑む。
「……なあ」
 身も心も焦げ付かせた嫉妬が少し治まった所で、龍之介は尋ねた。
「聞いていいか?昔、紘平との間に何があったのか」
 美弥はぐっと喉を鳴らし、龍之介から体を離す。


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