恋人達の悩み5 〜MEMORIAL BIRTHDAY〜-4
アルバイト初日は紘平のきめ細かなフォローと自身の器用さのおかげか、大過なく終わった。
「よっ、龍やん!お疲れさん!」
後から来た紘平が、何ともフレンドリーに話し掛ける。
「あ、お疲れ様です」
従業員のロッカールームにて、着替えた龍之介は携帯片手に美弥へメールを打っていた。
「もぉ敬語なんて堅っ苦しいの止めてやー?ジブン、俺とタメやろー?」
言いながら、紘平はロッカーを開けて着替えを始める。
「……十七?」
龍之介は、恐る恐る尋ねた。
「十七!」
「誕生日……四月二日」
「七月十九日!」
きっぱりした紘平の答えに、龍之介はぽりぽり頬を掻く。
「んじゃ職場以外は敬語なしで」
「よっしゃ」
言いながら紘平はTシャツの上に半袖のシャツを羽織り、下はジーンズという格好に着替えた。
「あ、そうだ。龍やん」
「ん?」
「俺、この辺に戻ってきたばっかりやねん。来た時は変わっとらんように見えたけど、歩いとるとやっぱり変わっとってなぁ……色々教えてくれへんか?」
龍之介は、目をぱちくりさせる。
「戻ってきたって……」
紘平は、にぱっと笑った。
やっぱり、おねえさんキラーな笑顔である。
「あぁ、言うとらんかったっけ?俺、おとんの都合で五年前大阪の方へ引越してん。ま、歳も歳やし自活もOKちゅう訳で、俺だけこっち戻って来たんやけどな」
「は……」
龍之介は、素直に感心した。
「んじゃ、連絡手段の交換しようか?」
「お〜助かる助かる!俺のケー番とアド、教えとくわ!」
ひとしきり互いの携帯の番号やアドレスを交換してから、二人はロッカールームを出る。
「じゃあさっそく案内でも……と言いたいとこなんだけど、ごめん。近くに彼女待たせてるんだ」
それを聞いた紘平は、にんまりと笑う。
「何やスミに置けんなぁ。龍やんの彼女なら、ごっつう可愛ええコなんやろなァ……見せて、いや紹介してくれへんか?」
「……見るだけなら」
にべもない答えに、紘平は唇を尖らせた。
「龍やんのイケズ〜」
「……じゃ、見せないという事で」
「あぁんウソウソ!そんな野暮言わんといてぇな!」
結局、紘平は付いて来た。
待ち合わせ場所のデパートを見て、紘平は歓声を上げた。
「うっひょー!このデパート、まぁだここにあったんかぁ!なっつかしー!」
龍之介が肩をすくめてさくさく歩き出すと、紘平は慌てて追い掛けて来る。
龍之介は一階にあるファーストフードに、美弥を待たせていた。
「そこのファーストフードのとこにいるけど……見せるだけだからな」
「分かっとるがな〜。おデートの邪魔するなんて野暮やったら、正味バチ当たるで」
如才なく言いながら、紘平は小走りにファーストフードへ行ってしまう。
「あ、おい……」
紘平は、ファーストフードの座席を覗き込んだ。
そして、固まる。
そこには、時間的に夕食を簡単に済ませようという男女がいた。
龍之介の彼女の可能性がありそうなのは……。
シェイクを啜っている派手な女子高生。
食い散らかしたゴミも片付けないでお喋りへ夢中になっている、女子高生の一団。
オレンジジュースを飲みながら、人待ち顔をしている女子高生。
「美弥」
背後から龍之介の声がして、紘平は我に返る。
「美弥、やて……?」
オレンジジュースを飲んでいた女の子が、笑みを浮かべて立ち上がった。
ゴミを片付け、こちらへやって来る。
「バイトお疲れ様。どうだった?」
「まあまあ、かな。あ、この人はあそこの……」
龍之介の紹介は、紘平の絶叫で途切れた。
「美弥やあああああああっっ!!」
二人だけでなく周囲の人間も、大音量にぎょっとする。
「うはーーーーーっっ!!まさか、まさか、まさか、ここで会えるなんて思わんかったでえええぇ!!」
叫んだ紘平は……なんと、美弥を抱き締めた!
「まさしく神サンの思し召しや!あぁ仏様ビリケン様おおきにいいぃ!!」
「……ってちょっと待てえいっ!!」
あまりの事に唖然としていた龍之介だが、慌てて紘平と美弥を引き剥がす。
「人の彼女に抱き着くなっっ!!」
引き剥がした美弥を抱き締めながら、龍之介は叫んだ。
「へ……彼女?」
「美弥は僕の恋人だッ!!」
頭に血が上った龍之介は、人目もはばからずにそう叫ぶ。
「美弥、お前……浮気しとったんか!?」
「うわっ……きぃ!?」
龍之介は思わず、腕の中の美弥を見下ろした。
当の美弥は何かを思い出すように、眉間へ皺を寄せている。