「意地悪なキスの痕」-9
「…そんなに、嫌か…」
「ん…ぁ」
「信じたくないのならそれでもいい」
「ふ、あぁっ!」
吐息を零すような切ない声。
快楽と痛みで、わけが分からなくなる。
どうにか、思考を繋ぎとめておきたくてシーツに指をついている彼の手を握った。
これが最後になるかも知れないと、離したくないとでも言うように彼を締め付けてしまっていた。
「……お前だけだ」
「っ…」
うわごとのように囁かれる言葉。
それを必死に捕らえたくて。
波にゆられている。止まらない刺激。
まるで照れ隠しのように。
顔さえ見せてくれないのに、強く感じるのは。
(課長…っ)
どくん、と穿たれる熱い大量の体液が精神を侵略する。
彼の迸りを受け、俺も激しい逐精を迎えていた。
もう抵抗する力なんて残っていない。何もかも奪われつくし、俺はベッドに横たわった。
そんな俺の身体から、彼はゆっくりと拘束を解く。
「妻が居ればいいと、そう思ってるのか?」
「……」
「俺から離れる口実を探しているのか…?」
「そ、んなこと…」
(こんな顔…初めてだ)
こんなにも縋りつくような瞳で見つめられたのも、こんなにも掠れた声を聞くのも。
「何が聞きたい」
「あ、あ…」
「何が知りたいんだ。何が分からないんだ」
「…っ」
乾いた指が、頬をなぞる。
切なくて、切なくて声が出ない。
無意識に俺も、彼に指を伸ばしていた。
触れたのを合図にして、所有物のように強く抱きしめられる。
息が止まりそうなほど、きつく。
「…愛している」
言葉に後押しするかのような強引で、意地悪なキスが心に痕を残す。
それは紛れもない、俺が一番欲しかった痕(しるし)だった。