「意地悪なキスの痕」-8
(信じたくない…なんて)
そもそも何を信じたらいいのかなんて分からない。
「ま、待ってくださいっ」
彼から離れたかったけれど、ネクタイを引かれているせいでそれは叶わない。
ベッドに手をついていないと崩れてしまうから、抵抗も出来ない。
「お前は黙って抱かれていればいい」
「い、やだっ…」
強引に身体が反転させられていた。
いつの間にかうつ伏せのまま、今度は背中に彼が馬乗りになる。
引き裂かれるようにシャツを肌蹴られ、中途半端に脱がされたそれは上手い具合に拘束具となって俺を縛り付ける。
これでは身動きなど取れない。
「や、だ…っ!」
下は自分で脱いでいたために、無防備だった分身を掴まれる。
すでに先走りに濡れていたそれは、残酷な五指に扱かれてシーツに染みを作る。
ここまでされては、疑うも何もなかった。
彼は真実を言わないかわりに、嘘もつかないともう分かっていた。
なのにこの意地は何なんだろう。
口に出せばきっと自分でさえ嫌いになってしまいそうで、唇をきつく引き結んだ。
だが、ほかならぬ彼の指に感じないわけがない。ぴくぴくと腰は揺れるし、快楽の声は彼には隠せない。
「ぁ…あっ…」
酷く切なかった。
聞きたいのは、奥さんの存在なんかじゃない。
「んぁあ…っ」
聞きたい真実は他にある。でも決心がつかなくて、代わりにきつくシーツを握り締める。
広い海のようなそれを汚すのは、何も自分自身の雫だけではなかった。
ぽたぽたと瞳から零れる雫もまた、シーツを濡らしていた。
すっかりと性交に慣れている後孔は、彼の指を拒もうとしない。
2本の指をたやすく飲み込んだ後に、焼けるような彼自身を含まされていた。
「んあぁ……っ」
飲み込みなれているとは言え、ろくに解してもいない挿入はきつかった。
まるで罰を受けているような気分だ。
何も望んでいないふりをして、貪欲だった自分には丁度いい痛みかも知れない。
いつもより膨らんで感じる彼のそれでかき回されて、引き攣れるように痛いのに気持ちがいいだなんて。
「あっ、あ…!」
背後から、彼は俺の身体を包み込むように抱きしめてくる。
耳元に感じる熱い吐息。
こんな風に彼が興奮していると感じるのは、初めての事だった。