「意地悪なキスの痕」-7
(何で…拒めないんだよっ)
泣きたくなる。
そんなに優しいキスをしないでほしい。
そんなに息が出来なくなりそうなほど抱き締めないでほしい。
なのに、拒もうとすればするほどに身体は彼を望んでいた。
「もう濡れてるんじゃないのか…?自分で脱いでみろ」
「っ…く」
俺が馬乗りになっている体勢のせいで、逃げ場をふさがれているキモチだ。
彼は根っからの簒奪者のように言い放つと、まだズボンに包まれた俺の臀部を鷲掴みにする。強く弱く、時に撫でるように揉みしだかれ徐々に頭が真っ白になっていく。
(こんな事しにきたんじゃないのに…)
流されてしまう。
結局どうしようもなく彼が好きだ。
妻がいたって、何が真実で、どれが嘘だろうと嫌われなければそれでいい。だから俺の指は無意識に彼の期待に答えていた。
「っ…」
自分の指でゆっくりとおろされるジッパー。
序言通り、下着は先走りにじっとりと濡れている。
替えはないから覚悟を決めて俺はそれをぐっと下げた。
勢い良く下着から飛び出したそれは、ぴんと立ち上がり愛撫を求めるように先端をひくつかせていた。
「元気だな…」
「ん、あぁ…っ」
繊細な彼の人差し指が裏筋をなぞる。根元から先端までくると濡れた糸を引かせ離れた。ひどくもどかしい愛撫に、また蜜が溢れるのを感じる。
「自分で飛ばしてみろ」
「っ、何でそんな意地悪ばっかり…」
意地悪なのは今に始まったばかりではないのに、冷たい口調に俺は思わず涙ぐんでいた。
微笑を含ませた瞳が俺を責めていた。
「俺を信用しない罰だ」
「…っ」
「結婚なんてしていない。妻も子供もいるわけがない。全部ただの被害妄想だ。わかったか?」
やけに冗舌に語る彼の唇を見つめる。
尻の狭間に感じるものはまだ熱く、急激に追い詰められていくみたいだ。
(…被害、妄想…?)
「…じゃあ…あの人は誰なんですかっ…」
「妹だろう」
「っ…んな都合のいい嘘」
「嘘じゃない。だいたい家族で暮らしている家に見えるのか」
「…浮気用でしょ」
「…馬鹿が」
「どうせ…っ」
「もういい、黙れ」
苛立った口調に、心が引き攣れる。
ネクタイを強く引かれ、前のめりになる。
その体勢のまま激しく唇をふさがれた。
都合よくごまかされている不安が拭えないのに、また何も考えられなくなる。