「意地悪なキスの痕」-2
(…ねぇ、課長?)
どくん、と下半身に響く甘い痺れが脳まで麻痺させる。
片足に掛けられていたズボンが、腰の揺れに負けて床へと落ちる。
その頃には、もうとっくに声を押し殺す事など頭から排除されてしまう。
(分かってます…?)
貴方は酷く、罪な人だ。
持ち上げられた脚のスキマにねじ込まれる熱い凶器。
これを誰かと共有している事にまで、嫉妬している自分がいて。
(俺は……)
言えない言葉を、吐き出してしまいたくなる。
冷たい瞳が、少しだけ媚を含み濡れている気がして、俺は思わず掻き抱くように唇を求めていた。
「っ…あ、あっ…も、っと…!」
激しく求めると、俺の痴態を褒めるように答える彼の律動。
耳元で切なく名前を呼ばれてしまうと、何もかも捨ててしまいたくなる。
言いたくて言いたくて、狂いそうな程の熱情を貴方にもっと感じて欲しくて、今この瞬間だけでも、貴方を独り占めしたくて、彼自身を思い切り締め付けてみた。
「……っ」
そんな締め付けに顔をゆがめる彼。
自分で感じてくれているのが嬉しくて、少し切なくて。
(貴方を誰かと共有なんて…もうしたくないんです)
意地悪な彼と、同じぐらい俺もきっと意地が悪い。
誰にも渡したくなくて、俺の身体に夢中になる彼の首先に、小さな印を。
これが誰かに見付かっても、全て貴方のせい。
夜遅い時刻に帰宅して、シャワーを浴びる為ネクタイを解いた所で、鏡に映る首筋のキスマークに気付いた。
こんなものを残せるのは一人しかいない。
「まったく…」
すっ…とその場所を指でなぞり、ほくそ笑む。
痕を残される事がはじめてだったので、何故だか嬉しいような気持ちになった。
頭からシャワーを浴びる身体に残る情事の余韻。
彼も今頃その熱に苛まれているだろうか?
「別に…意味なんてありません」
次の日。会議室に呼び出した彼の口から、開口一番飛び出した言葉がそれだ。
やけに可愛くない態度、だがそれが自分のツボに嵌る。
分かってて、つれない態度を取っているんじゃないかと疑いたくなるぐらい。
「…可愛いな、お前は」
「な、何言ってるんですか…っ」
組み敷かれた彼は、ストレートな言葉に頬を赤らめて目をそらす。だが、それを許さずに強く頭を押さえつけて、視線を絡ませた。
机に押し倒されて背中が痛むのか、逃げるそぶりまで見せている。
「本当に可愛いよ」
「や、やめてくださいっ…!」
抵抗は言葉だけで、あっけなく捕まる身体を嫌というほど押さえつけて、ネクタイに指を伸ばした。
表面的な偽りなど、すぐに剥いで暴いてやる。
まるで獣のような気分になって、そのシャツを脱がせた。