やっぱすっきゃねん!UH-9
「ただいま!」
玄関口で元気な声をあげる佳代。すると、奥からドタドタと音がして修が現れた。
「姉ちゃん!遅いよぉ…」
修は姉の帰りを待ちわびていたようだ。
「何でアンタが待ってんの?」
「…だって、新しくバットとグローブ買ったんだろう。ちょっと使わせてくんないかなぁって…」
眉間にシワを寄せる佳代。
「アンタのバットじゃないのに、何で使いたがるの!?」
「新しいヤツなら振ってみたいじゃん。ちょっとで良いからさ、貸してよぉ」
修は情けない顔で両手を合わせ、姉に懇願する。その姿に佳代はため息を吐くと、
「じゃあ、この後、お風呂掃除とゴミ出しやるなら貸してあげる」
「エーッ!今日は姉ちゃんの番じゃ…」
「あたしゃコレのおかげで、これから毎日、他の手伝いが待ってるの!」
修は唇を噛んでしばらく考え込んでいたが、〈分かったよ…風呂とゴミ出しやるよ…〉と、仕方なく了承した。
2人はバットを持つと裏庭に向かった。あまり広くない庭は、一面芝生に被われている。
佳代はバッティング・グローブを着けると、ある場所に立った。そこはいつも素振りをするため、芝生は剥げて地面も窪んでいた。
10回ほど軽く振って、身体を馴らす。
「姉ちゃん、早く替わってよ」
自分も振りたい修は、佳代を急かす。
「…分かってるよ…」
佳代は練習と同じように狭いスタンスで構えると、右足を大きく踏み出しバットを強く振り抜いた。
鋭い風切り音が鳴る。
(やっぱり良い…)
佳代は何度も々夢中でバットを振り続ける。
「姉ちゃん!そろそろいいだろう」
しびれを切らして語気を荒げる修。その声に、佳代は我に返った。
気づけば、額やこめかみから汗が滴り落ちている。
「…ハァ…ゴメン…つい…夢中になっちゃって…」
そう言ってバットを渡した。受け取った修は、いつものように強く振ってみる。
その仕草をジッと見つめる佳代。
「どう?良いでしょ」
だが、予想に反して修はがっかりとした表情を見せた。
「もっと凄いのかと思ったけど……軽くて、グリップも細くて使い難い…」
「そうかなぁ…」
「なんだか…打った瞬間、ボールの勢いに負けそうだ…」
弱い筋力で軽いバットを使うと、ボールの勢いに負けて打球が飛ばない場合がある。
修のもっともな意見だが、佳代はそう思っていない。
「修には合わないんだよ。私には最高のバットだもん」
そう言うと、佳代は流れる汗を拭った。
───