やっぱすっきゃねん!UH-8
「それ…明日から使うのか?」
ショッピング・モールからの帰り道。
直也は自転車に積まれたバットとグローブをアゴで指す。
「そうだね。あと、ひと月は素振りとキャッチボールが主だろうから、その間に馴らして実戦で使えるようにしないと…」
「…オレには分からないけど、そんなに良かったのか?」
グローブはともかく、直也には未だバットの良さが分からなかった。
そんな問いかけに、佳代は天を仰いで笑みを浮かべる。
「握った瞬間にね、身体に電気が走った…そして、〈あっ、これならいける〉って…」
「へぇ、なんか、どっかで聞いたような話だな…」
「そう?」
直也は前方を見据え、歩きながら続けた。
「…名前は忘れちまったが…あるプロ野球選手で、ソイツは即戦力と期待されて入団したが、2年間、大した活躍も無くて2軍暮らしをしてたんだ。
そこで心機一転しようとバットの専属メーカーの工場を訪れた」
佳代は話に興味を持った。
「それから?」
「そこには様々な名手達のバットがサンプルとして保管してあって、ソイツはそれを握って試していたそうだ。
そして、あるバットを握った瞬間、身体に衝撃が走った。
後の話では、それは首位打者を取った選手のバットだったらしい」
「へぇ、じゃあ、その人はそのバットを使ったの?」
「ああ。ソイツは、そのバットをベースに微調整して自分用のバットを作ってもらった。
それから活躍しだして、後に首位打者になったそうだ…」
佳代は直也の話にジッと聞き入っていたが、
「じゃあ、私も首位打者とまでは言わないから、それなりに活躍出来れば良いなぁ…」
そう言って、屈託の無い笑顔を浮かべる。
それを見た直也はニヤリと意地悪な顔を見せて、
「それよりも、4万円も使って来年に挑むんだ。中途半端な成績じゃあ、恥ずかしいだろう?」
「う、うるさいな!アンタに言われなくても分かってるよぉ!」
思わず顔を赤らめる佳代。
陽光は傾き、空を暖色に染めていた。
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