やっぱすっきゃねん!UH-4
「…!そ、そうだ!」
佳代は辺りを見渡し、離れていた店員を呼び寄せる。
「すいませーーん!ちょっと…これ、振っても良いですか?」
呼ばれた店員は戸惑いの表情を見せた。制服姿の女の子から〈バットを振らせろ〉なんて、初めて言われたからだ。
「軽く、1回でいいんです!」
すがるような目で必死に訴える佳代。
店員はしばらく考えていたが、
「じゃあ、そこの隅でなら……」
愛想の良い表情で周りの商品を少し退かし、素振りのスペースを作ってくれた。
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げる佳代。
店員と有理は、後に下がって素振りを見守った。佳代はバットを構え、踏み出すと軽く振った。
〈ヒュン〉という風を斬る音。
「…これ…スゴい…」
その感触に身震いする佳代。
「…こんなの…初めて…」
驚きの出会いに喜びが駆け巡る。彼女は興奮した様子で店員に掛け寄った。
「…コレッ!取ってて下さい。必ず買いに来ますから!」
「…わ、分かりました…」
佳代のあまりの形相に、店員は面喰った表情を見せた。
───
夜。少し遅れて帰宅した父親健司は、入浴を終えてテーブルに腰掛けると子供達を呼んだ。
「佳代に修。通知表を持っといで」
リビングでテレビを眺めていた2人は、階段を上がって自室へ向かう。
その動作は対照的で、佳代は駆け足で、修はトボトボと。
「ハイッ、お父さん」
先に佳代が現れた。健司はその内容に驚いた。
「…上がってるじゃないか!しかも、2が無くなって3と4ばかりに…」
「…エヘヘ…凄いでしょ…」
照れ笑いを見せる佳代。それを見た母親の加奈がチャチャを入れる。
「毎日、昼休みに友達から習った甲斐があったわね!」
「アッ!シーーッ!それ言っちゃダメだよ」
人差し指を口元に当てて焦った顔を見せる佳代に、健司と加奈は笑い出した。
そんな明るい雰囲気を壊すように、修が重い足どりでテーブルの前に現れる。
「…父さん…これ…」
俯き、そっと通知表を差し出す修。その内容は1学期とほとんど変わりない。