やっぱすっきゃねん!UH-3
有理が佳代を知ったのは4月の事だった。
2年のクラス替えで、やたら背の大きなコと一緒になった。
ひとりは尚美で、彼女とは1年の時にクラスメイトで知っていた。
その尚美と変わらない位の背丈をしているのが佳代だった。
ショートヘアに焼けた肌。〈野球部に女子が居る〉という噂は聞いていたが、その本人とクラスメイトになるとは思いもしなかった。
男子ばかりの中で野球を続けるくらいだから、さぞ気の強いコだろうと有理は思っていた。
だが、実際はそんな事無く、野球以外では明るく快活な印象を受けた。
しかし、だからと言ってすぐに仲良くなったわけではない。
2人が一気に距離を縮め、仲良くなったのは、翌5月の事だった。
5月半ばにクラスマッチが有り、同じチームでバレーボールに出場する事になった。
しかし、有理はどちらかと言えば運動は苦手としていた。
スポーツ万能な佳代は、そんな彼女に優しく教えてやったのだ。
後に聞けば〈ただ勝ちたかったから〉と言っていたが、有理は嬉しかった。
〈有終の美を飾りたい〉
有理は、そんな佳代の願いが叶えば良いのにと願った。
佳代はグローブで試合時のような動きをして使い勝手を確かめると、
「…これ…かなぁ…」
と、どうやら決まったようだ。しかし、その値段を見た途端、ため息混じりに声を漏らした。
「… 2万… 2千円かぁ…」
さすがに手が出ないようで、残念そうにグローブを棚に戻す。
「それが…良かったの?」
どれも同じにしか見えない有理。だが、佳代は再びため息を吐いた。
「…スゴく良かったんだけど……」
佳代はグローブの事は忘れようと、となりに並ぶバットに手を伸ばす。何本かのグリップを握り、なに気なく感触を確かめた。
そして、あるバットを握った瞬間、彼女の中に衝撃が走った。
「…これ…」
驚きの目でバットを見つめる佳代。それは全体に細く、わずかに先端寄りの重心だった。
「…佳代…ちゃん?」
異変に気づいた有理が思わず声を掛ける。
だが、佳代は爛々と輝く目でバットを見つめるだけだった。