やっぱすっきゃねん!UH-12
「いいちぃーっ!」
声に合わせ、前足をステップして後足に体重を掛けると同時に、上半身をわずかに後に捻る。
そこから前足を踏み出し、腰を捻ってバットを振出す。
振る際に、投げたボールとバットが当たる位置で雑巾を絞るようにグリップを握り、腰で押し出すように振り切る。
皆の出す声が響く。
「にいぃーっ!」
再び構えを戻してから振り始める。これを300回。
最近こそ、なんとか300回(1年生は200)をこなせるようになったが、始めた10月頃は呼吸法も分からず、山下などレギュラー・クラスも100回程度しか続かなかった。
「152!!」
(やっぱりスゴいや…)
回数も半分を過ぎ、改めて感触に満足する佳代。
いつもは半分あたりから呼吸が乱れ始め、汗が溢れてくる。
そこから先は、息は絶え々、流れる汗を滴らせ、なんとか300回をこなしていた。
しかし、今日は呼吸が乱れてこない。
(…これならイケる…)
来年に向け、密かな手応えを感じる佳代。
そんな彼女の変化を、永井や葛城は見逃さなかった。
───
12月29日。
今年最後の野球部の練習を終え、職員室には永井と葛城、それに一哉が居た。
一哉は前日に仕事納めを迎え、今日は顔を出していた。
「どうも、今年はありがとうございました!来年もまた……」
永井の挨拶を音頭に3人は今年を労い、お茶で乾杯する。
一哉が永井に尋ねた。
「ところで、来年の練習開始ですが、30分早く集めてもらえませんか?」
「それは可能ですが、また何故?」
「急な話で申し訳ないのですが……」
一哉は永井と葛城に、自分の考えを語った。
「そりゃ良い!」
思いを聞いた永井はヒザを叩いて嬉し気な顔を見せた。
しかし、葛城の方は驚きの表情を隠せない。
彼女は、思い切って自分の意見を一哉に言った。
「…でも…それを事前にやると…返って部員達の負担になりはしないですか?」
「そうならないために、貴方の力が必要なんです」
一哉は、優しく語り掛けて葛城を諭す。