やっぱすっきゃねん!UH-11
「…大きめだけど、ポケットも深くて使い易そうですね」
同じ外野手という事もあり、田畑は興味深くグローブを見つめている。
「ずいぶん高かったんじゃないですか?」
「そうよ。おかげで貯金は無くなるし、不足分は家の手伝いしなきゃいけないし…」
佳代は嘆き声で、田畑にいきさつを聞かせた。
「澤田さんも大変ですねぇ…」
田畑は笑いながら、佳代から離れていく。
「…でもさ、来年は私にとって最後だし…ね…」
そこで話を切ると、握ったボールを田畑に見せてからキャッチボールを始めた。
───
午後も1時を過ぎ、筋力トレーニングを終えると、素振りが待っている。休憩を挟みながら、約1時間バットを振り続ける。
黒いバッティング・グローブを着けた佳代は、バット・ケースから例のバットを取り出した。
その顔は、グローブの時以上に笑みを湛えていた。
「そのバットも買ったんですか?」
またしても田畑が声を掛けて来る。
「そうだよ」
「結局、グローブとバットで幾らしたんです?」
「え〜と…4万だったかなぁ」
それを聞いた瞬間、田畑が苦笑いを浮かべる。
「それだけのお金を使ったんだから、地区大会ぐらい優勝しないと。恰好がつきませんね?」
昨日の直也同様、からかうような言葉に、佳代の頬は赤くなった。
「分かってるよ!そんな事…」
語気を荒めて言葉を返すと、田畑との話題を変えた。
「人の事よりアンタも頑張んなさいよ!来年の大会に選ばれるように」
逆に突っ込まれる田畑。〈分かってますよ〉と答える表情は苦いモノだった。
「素振り始めるぞぉっ!」
山下の号令がグランドに響く。
部員達はお互いが邪魔にならないよう、等間隔でグランドに広がった。
「構えぇっ!」
ひとり々が肩幅より少し広くスタンスを取り、バットを耳の後に構える。