【笹原義弘】-6
「話って言うのはね」
いきなり坂下さんが話をし出して、俺は顔を上げる。
「みのりちゃんのことなんだけど。
あの夜、笹原君が社長室から出て行ってから、みのりちゃん入ってきたの…社長室に」
「…え…?」
「あの夜ね、みのりちゃん…好きって笹原君に言いたくて待ってたみたい。だけど社長室に音も立てずに入って、わたしがいるのに電気を消したのを見て…
不思議に思って笹原君が出ていった後、笹原君を追わずに社長室にノックしないで入ってきたの。そこには、服を乱したわたしが社長席の近くにいた…」
「何…言って…」
膝に置いている手が震えているのがわかる。
あの後…みのりが社長室に入った…?
「わたし、昨日のこと…みのりちゃんから聞いた。
みのりちゃんが我慢しなくていいよって言ったってことは、笹原君がわたしを抱いたことを目の当たりにしてもずっと好きでいたってことでしょ?
それがひどいことだって理解してても、笹原君のことが好きなんだよ?
わたしが笹原君のことを『嫌いになりたくない』『信じてる』って思うのはみのりちゃんのため。お人好しだと思う?」
――坂下さんならそう思って当然だと思う。
口には出さなかったけど、俺は心の中で呟いた。
「そんなに、思ってくれる人、なかなかいないよ?」
坂下さんは立ち上がって、クスッと笑う。
その顔を見て、やっぱり綺麗だな…と思った。
「あとね。
笹原君を社長と間違えたわたしを脅すようにして抱いたと思っているのかもしれないけど…笹原君は最後まで、優しかった。
純粋に笹原君の気持ちは嬉しかったよ」
そう坂下さんが言い切ったところで何人か社員が挨拶をしながら入ってくる。
「…社長室、行くね」
「ありがとうございました…」
俺は深く、頭を下げた。
坂下さんを好きになってよかった。
俺のやったことは許されることではないのに。
あなたを傷つけたのに。
・・・・・・・・・・・・
「義弘、早いね。どうしたの?」
8時をすぎた頃、みのりが出社してきた。
席に座って不思議そうな顔をする。
顔がみれないかと思ったけど…けど。
言わなきゃいけない。
「…みのり」
「ん?」
今まで見ていなかったところをこれからもっと見ていきたい。そう思うから
「俺がみのりを好きになるまで待ってて」