愛は地球を滅ぼす-3
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何の変哲もない平日の朝。慌てて家をでる少年の姿。
玄関から怒鳴り声と一緒に何か飛んできた。―ふりかけだ。
少年は軽くよけて自転車に乗り、さっそうと学校へ向かう。
その学校では、可愛い少女が友人とおしゃべりをしている。
楽しそうな笑い声がここまで聞こえてきそうだ。
その光景をみて、小さな溜息をついた者がいた。天使の佐藤である。
静かに少年の言葉をありありと思い出した。
−
「オレは…地球を選ぶ」
「それで、よろしいんですか?」
「ああ。決めた」
少年は揺るぎそうになかった。
「責任感とかじゃなく、自分のためなんだ」
「自分のため?」
「世の中ろくなもんじゃねーと思ってたけど、なくなるのは嫌だから」
「…自国愛ということですか?」
「そんなんじゃねー。ムカつくけど政治家もいなくちゃねーってことだよ」
「??はぁ…」
「二人だけの星なら好きなことしていられるけど、地球で生きる方が
オレはいいと思う。依吹もそうだと思う」
「あえて地球を選ぶということですか?」
「腐っても地球だな。オレは地球で大人になりたい」
「…。二人の愛情が消えてしまっても?」
「消えねーよ。根性で覚えててやる」
「…。それは無理なのでは…」
「なんだよっ!オレに根性がねーっていうのかよっ!?」
「だぁかぁらぁ〜」
すると少年は急に大人びた顔で眠る少女を見た。
「依吹はピアニストになりたいんだってさ。叶えてやりたいじゃんかよ」
『そのご決断承りました』
−
少年の愛の言葉を思い出すたびに佐藤は微笑んでしまう。
実は、地球が滅びたなんて真っ赤な嘘だった。
天界の年間行事『人間の実態調査』だったのだから。
無作為に選ばれた男女の決断から人間の本質を見極めるのが目的らしい。
…あの口の悪い少年には恐ろしくてとても真実は言えないが。
無論、すでに少年の中から佐藤と出会った記憶は消えている。
遅刻ギリギリに教室に入ってきた少年を見て、少女が笑う。
二人は目をあわせ、優しく微笑む。
腐っても地球だと君は言ったか。私には愛の言葉に聞こえたよ。
君達が生まれた星は、今日も愛で包まれている−。