フリースタイル4-4
『みんな、ほんまありがとお』
そう言ってステージを去っていくヒカルはまるでどこかのアイドルみたいだった。
曲が終わるとkyouzはさっさとどこかに行ってしまい、あたしとスネークだけが無言のまま残された。
「…座んない?」
スネークは隅っこのやけに脚が長い椅子を指して言った。
あたしは黙ってそこまで行き、腰を下ろした。
「実香ちゃんって歌うまいんだね」
スネークはあたしの隣に腰掛けると、煙草に火をつけながら言った。
「中学の頃からバンドやってるらしいよ」
あたしはkyouzからもらったウーロンハイを飲みながら答えた。
「っぽいね。声量も音程も安定してたし」
あたしはスネークの言葉に頷きながらふと、周りを見た。
ここからだとフロア全体が見える。
さっきあたしとスネークが座っていたソファーに、今度は実香とkyouzが座り、何か楽しそうに話している。
いや、何か話しているというよりはいちゃついている。
あたしはそれを見て前から気になっていた事をスネークに聞いてしまった。
「kyouzって彼女いるの?」
なんでこんな事聞いてしまったのかは、多分あたしはすごく気になってたからだ。
人の恋愛にはあまり突っ込まない主義なんだけど、kyouzのあの女癖の悪さを許せる彼女がいるなら見てみたいじゃない。
「………いるよ」
スネークは煙をふぅっと吐き捨てて言った。
いるんだ…。
あたしはkyouzは彼女がいるとは思っていたけど、心のどこかでは特定の子を作るなんて信じてなかったみたいだ。
だから少しびっくりしてしまった。