Shall we Dance?-1
「はい、1・2・3…」
グラウンドから聞こえる声と軽快な音楽。
俺は目を閉じて、己を呪った。
もうすぐ体育祭。
今行われているのは、そのとき踊るフォークダンスの練習。
フォークダンスでは全校生徒が男女ペアになってペアを交代しながら踊る。
それは彼女も例外ではなく、しかも教師である俺は参加できない。
つまり、俺はサチと総太が手をつないで踊るのを黙って見ているしかできないのだ。
「失礼しまーす。尚先生いますー?」
「…何の用だよ」
目障りな存在が職員室に入ってきた。俺はあからさまに嫌そうな顔をする。
しかし、奴は俺とは正反対に、笑顔を向けてきた。
「先生、聞いて下さいよ。俺、幸先輩と踊れるんですよ」
「…ふーん。良かったじゃねぇか」
努めて平静に返事をする。
すると、俺の気持ちを察知したのか、総太はニヤリと笑って俺に囁いた。
「俺の勝ちッスね」
この野郎。
「…放課後、数学資料室の片付け手伝えや」
「いーッスよ。じっくりやりましょう」
俺の申し出に奴は不敵に笑って乗った。
本当なら今すぐでもいいのだが、ここは職員室。しかも今は授業の合間の休み時間。明らかに状況が悪い。
「じゃっ、先生。また後で」
そう言って総太は出て行った。
奴が去った後、俺は頭を抱えた。
クソッ、余裕な顔しやがって。
俺と奴には決定的な差がある。
奴は俺と違って『生徒』だ。当然、奴がサチとくっついても違和感はない。しかし、俺は『教師』であり、サチとはこの校舎内で極端に関わることはできない。
いつもなら、絶対にサチを渡さない。
けれど、今回は分が悪い。
『教師』と『生徒』がこんなに高い壁だったなんて、それを改めて痛感した。