Shall we Dance?-4
けれど、去年はこんな気持ちにはならなかった。
去年の俺は、こんなことを考える自分なんか想像できなかっただろうな。
あの頃は、サチはただの『幼なじみ』だけだったから。
誰かを愛する気持ちなんか、高校生のとき以来存在していなかったから。
『─次はフォークダンスです。生徒は所定の位置について下さい』
アナウンスが入ると、生徒達は大きな円をつくり始めた。
男子が内側、女子が外側。サチの姿は見えないが、きっとどこかにいるのだろう、探す気にさえならなかった。
今頃あいつはほくそ笑んでるんだろうな。
考えただけでも息苦しくなる。
ところが。
「すみません、男子生徒2人、女子生徒1人足りません」
遠くから聞こえる教師の声。
これはチャンス。
「あっ、じゃあ俺入ります」
そう言って輪の中へ向かった。
男子が足りない場所へ案内されて向かう。
「あっ、尚先生!先生踊んの!?」
「まーな。足踏んづけちまっても怒んないでくれよ」
ペアになった女子生徒はそれを聞いて笑う。
ところでこいつ、うちのクラスの生徒だよな?
そう気付いて隣をちらっと見ると、俺を睨みつけている奴が1人。
「よぉ、総太」
俺は笑いをごまかすことができなかった。
「…先生、何でいるんスか」
「代理だよ、代理。おっ、ほら、曲始まったぞ」
明らかに不機嫌な顔の総太に対して明らかに上機嫌な俺を見て、女子生徒は不思議そうな顔をしていた。