冷たい情愛Die Sekunde 最終話-7
「実は…」
私は、思い切って口を開いた。
彼女は一瞬驚いた様子だった。
しかし、少し目の力を強め…私の見つ直した。
その視線は、私の奥の奥まで見透かそうとするまっすぐなもの。
私はその視線に圧倒され、言葉を続けられなくなってしまったのだ。
「でも、それを責めることなんて誰にも出来ないわよね」
彼女は、私の言葉を遮るようにそう言った。
「純粋に人を好きになったり…打算で人生の選択をしたり…」
彼女は、私を諭すかのように話し続ける。
「人は…そんなに正しく生きられないし、かといって愚かすぎるわけでもないし」
「はい…」
「私だって、本当のところは…酷い女だったし、酷い母親だったわよ」
そうかもしれない。
息子には見せなかっただけで、再婚の本当の意図は母親である彼女にしか分からない。
「それでも、今、幸せなのよね」
「はい、先日東京でお会いした時、そう思いました」
彼女が夫のために土産を選ぶ姿。
「紘子さん、過去は変えられないのよ」
「え?」
「だからね、それをわざわざ…苦悩の種にしても仕方がないのよ」
私に、優しい笑顔を向け彼女はそう言った。