冷たい情愛Die Sekunde 最終話-5
「芳から、何か聞いたのかしら?」
それでも、彼女は決して警戒した風ではない。
私の問いに、いかに正しく答えるかを模索しているようにも見える。
「お義姉さんの結婚のことを、ひどく気にかけていました」
私は、できるだけ端的に正直に言葉を並べた。
「私は、他人だから冷静に見れたのかもしれないわ」
彼女は、語り始めた。
「夫は、早くに母親を失った娘を…過度に守っていたのね…きっと」
目の前にいる彼女は、一生懸命過去の記憶を辿っている。
「神崎さんが、教師を辞めて戻ってきた時…あの時の顔は忘れられないわね」
彼女は、過去を思い出しながらゆっくりと言葉を発する。
「神崎さん、どんな先生だった?」
彼女は一端、話を落ち着かせようとしている様だ。
「熱心な先生でした。生徒からも信頼されてました」
私は、ある一つの事実だけには触れないように、かつ正直に答えた。
「ここに戻ってきた時の顔…覚悟を決めたって顔だったわね」
「覚悟?…ですか?」
「ええ…見ている私が苦しくなりそうだったわ」
教員を辞め戻ってくることを、あれだけ引き伸ばしていた彼。
それが戻ってきた途端、あっという間に結婚の準備をすると言い出し…
夫の会社に就職したことが自分には息苦しく見えたのだと言う。