南十字星への行き方-1
「先生…私南十字星見たいの」
「…南十字星?」
「そうだよ、銀河鉄道の終着駅」
「宮沢賢治だな」
「ね、先生。私と南十字星見ない?」
冬休みに入る前
俺の担当しているクラスの
山崎 奈々が言った言葉
あの言葉が頭から離れない
でも、俺はあいつの相手をしてやるほど
暇ではない
「鈴川先生?」
「あ…高梨先生…」
「あの…今夜空いてますか?」
「…ええ、空いてますよ」
やっぱり、高校生の相手なんかやってられない
相手は大人じゃないと
しかも、今夜は学校一美人教師の高梨愛美先生だ
「先生?ココ行きませんか?」
「あ、パスタですか?」
「お嫌いですか?パスタは」
「いえ…好きですよ」
「じゃあここにしましょう」
中は落ち着いたイタリアンの店
トマトの匂いがつんとしている
適当に窓側の席に腰を下ろした
「高梨先生、何か話でもあったんじゃないですか?」
「えと…その…」
俺は、ふいに窓の外に目をやった
表参道とは違う裏道ってやつが目に入った
ピカピカとピンク色のラブホが立ち並ぶ
そこで、俺は山崎 奈々が誰かとラブホ街を歩くのが見えた
なぜか、いてもたってもいられない気分で
俺は、席を立った
注文を受取りに来たウェイトレスも
喋りかけていた高梨先生も
すべてを放り投げて
「山崎!」
「せっ先生!?」
「何やってるんだ」
「え…」
「こんな所で!補導されたいのか?」
「ちっ違うよ先生」
「なにが違うだ」
「こちら、私のお兄ちゃん。で、高梨先生の彼氏」
「…は?」
「もぅ先生理解力無いね」
「ゃ…ちょっと待てよ」
「どうかした?先生」
「じゃぁお前は」
「あたしは高梨先生についていったお兄ちゃんの付き添い」
「…ったく」
おかげで気づいてしまったじゃないか
山崎への気持ちに
「二人の邪魔になるな」
「…お兄ちゃんっあたし先生と帰るねっ」
「おぃっ山崎っ」
「さっ先生行こっ」
俺の腕を掴みながら
山崎は言った
「先生っ私と南十字星見に行く気になりました?」
「そうだな、山崎があと一年我慢できるなら」
「一年って卒業までってことですか?」
「そうだよ」
「じゃ今の言葉忘れないでくださいね」
暗い夜の町を歩きながら
俺はいつか見る
南十字星を想った