腐肉(その5)-5
あの頃、私はこのままあの男の手の中に堕ちていくことにぞっとするような不安を覚え始めて
いた。そしてあの男から逃げるように私は小料理店で板前をしていた男と見合い結婚をした。
その人は、料理人らしく律儀で真面目な人だったから、私はあの子を私の甥ということにして
いた。私はあの男のことを忘れたいと願い続けていた。でもあの男の仕打ちは私の肉奥に深く刻
まれていたのだ。夫の筋肉質の厚い胸にどれだけ優しく抱かれても、私の体はもうすでにあの男
の精液に深く犯され、夫の性器に何の欲情も悦びも感じない体になっていたのだった。
夫のいつまでも柔らかく優しい性器を私は体の中に無理矢理受け入れても、私の肉の悦びが戻
ることはなかった。
そして夫が死んでからも私はあの男のことが忘れられなかった。行きずりの男に抱かれたこと
もあったが、けっして私の体は欲情に燃え上がることはなかった。
そしてあの日十数年ぶりにあの男にあったとき、私の体は自然に熱を帯びてくるのを感じたの
だった。
私の体を苛めてほしい…再びあの男のもので嬲られ、それを咥えたかった。
そしてあの男に縄で乳房を緊めあげられ、股間に縄をくぐらされ、そして緊縛された体の隅々
まで嗅がれ弄くられ嗜虐されるとき、私の体が忘れかけた女の汁で溢れるように濡れた。
女には鞭で嬲られ、体液を搾り取られ、荒々しく強姦されないと体の悦びに浸れなくなるとき
があるのだ。
私は再会したあの男に、私の性器の奥深くを鋭い刃物でじわりじわりと抉りとるように狂おし
いくらい苛めてほしかった。そしてあの男の腐肉から私の中に注がれた精液に蛆虫がたかり、私
の膣肉を少しずつ腐爛させていくような淫靡な爛れた肉の悦び…それを強く体が欲していたのだ。
そのとき私は女としての悦びを再び取り戻すことができるのだった…。
外の少し冷たい夜風が頬をやさしく包む。
僕は男のマンションを出て、ふらふらと路地から表通りにぬける道を歩いた。男のペ○スを
しゃぶり続け、そして飲み干したあの男の精液がまだ喉の粘膜に絡み、胃の中でむらむらと蛔虫
のように蠢いているようだった。口の中の頬の内側の皮膚が男の亀頭の先端で擦れたような痛み
をもっていた。
あのマンションに入ってから、どれくらいの時間だったのだろうか…。
酔ったような足どりの僕を避けるように、通行人が怪訝な顔をして傍を通りすぎる。
一瞬、僕は吐き気に襲われ、咽喉に注ぎ込まれた男の精液を路面に嘔吐した。唇から胃液とと
もに腐ったような臭いのある分泌液が滴る…。眩暈とともに毒々しい夜のネオンの光が眩しくせ
まってくる。それは僕を鈍色の倦怠と退廃に満ちた変容へと誘っているかのようだった。
地下鉄の駅に向かう雑踏の中で、僕はその淫靡な余韻に体の芯がまだ少し火照っているのを
感じていた…。