ヒメゴト〜meetingroom〜-1
――コンコン
ドアをノックする音。
そして、
「西田さん?ちょっといいですか?」
陽介と麻衣子は顔を見合わせ、
血の気が引いていく瞬間をお互いが確認した。
「西田さん?まだいますよね?」
陽介には声の主は分かっていた。
半裸の自分と、関係ない麻衣子が居る事によって、
色んな誤解を招く。
瞬間で状況を改善しなくてはならない。
「あぁ。ちょっと待ってくれ、高野。今開ける。」
陽介は麻衣子を立たせ、
見出しなみを整えた。
麻衣子の手を引き、
ドアの手前まで辿り着くとそのまま麻衣子を壁に押し付けた。
シッ、と唇に人指し指を当てると、
鍵を開けた。
「すみません。忘れ物しちゃいまして。」
えへへ、と照れ笑いしながらドアを開けるのは、
陽介の同期の高野美映だった。
この会議室のドアは廊下からは押して開ける。
つまり開いたドアに麻衣子はすっかり隠れていた。
「お昼休み返上で残業なんて、西田さん偉いね。」
自分が座っていた席の辺りを探している美映の声に、麻衣子はハッとした。
先程のトイレの会話が鮮明に思い出される。
(彼女居ないなら狙っちゃおっかなぁ?って言ってたの…、この人だ…。)
その事実に気付くと、
麻衣子はカタカタと震え出した。
今にも涙が溢れ落ちそうになり、
ドアに隠れている自分が滑稽で仕方なく思えてきた。
「見付かったのか?ちなみに何忘れたんだ?」
陽介は巧みにドアに重なり麻衣子の存在に気付かれぬ様、
至って自然に振る舞った。
「携帯ですぅ。あ!ちょっと西田さん、鳴らしてくれません?」
「あぁ。」
陽介は上着から携帯を取り出すと、
美映に発信した。
ピルルル、と鳴ったのは美映の懐からだった。
怪訝そうな顔をして陽介は携帯を閉じた。
「やだぁ!忘れてなかったみたーい!」
キャッキャとはしゃぎながら美映は携帯を取り出し、陽介の着信を確認した。
「あったなら出てって。まだ終わってないんだ。」
明らかに不機嫌そうに陽介は美映を見る。