光の風 《風神篇》後編-7
「お前の気持ち次第でこの光玉は形を変える。包帯の礼だ、受け取ってくれ。」
思わぬ状況に兵士は慌て、焦りながら感謝の気持ちを述べた。カルサは微笑みそれを見る。
「名前は何という?」
いつのまにかカルサの横には千羅が位置していた。兵士は気になりながらもカルサの問いに答える。
「遠征部隊所属、エプレットと申します。」
「エプレット、か。」
「はい!」
カルサの言葉に1つ1つエプレットは反応する。カルサは微笑み、目の前に握りしめた包帯を掲げた。
「ありがとう。敵はまだまだやってくる。私はこれ以上の侵入を防ぐ為に手を打ちに行く。」
カルサの言葉に返事をし、エプレットは軽く頭を下げた。カルサは千羅とアイコンタクトをとり互いに頷いた。
「エプレット、ここは頼む。千羅、行くぞ!」
カルサは千羅に呼びかけ、その場から走り去っていった。エプレットは二人の後ろ姿を見送り、持ち場に戻ろうとした。
そして、もう一度カルサ達の後ろ姿を眺める。手の上にある小さな光玉を握りしめた。
「ご無事で。」
エプレットは祈るように呟いた。
「彼は黒大寺聖の部下ですか。」
走りながら千羅が呟いた声にカルサが反応した。
「そのようだな。どこかナタルに似ている。」
手の中にある白い布が暖かく感じる。遠征部隊所属と名乗ったエプレットはどこかナタルに似ていた。先の襲撃でヴィアルアイに重傷を負わされたナタル。
左足と左腕を失い、軍隊復帰の望みは失われた。それどころか彼は未だ昏睡状態のまま、命の燈さえ失われそうな程でもある。
重傷の彼を見つけたのは貴未であり、まだうっすらと意識があったナタルはうわごとのように呟いていた。
「陛下、違う。…か。」
ナタルが一体何を見て聞いて、何を伝えたかったのか。それは彼が目覚めない限り誰にも分からない事。しかしナタルは深い眠りに落ちたまま戻ってはこない。
「千羅、リュナはどうした?」
いくら考えても仕方ない、今は目の前の事に目を向けようとカルサは意識を変えた。彼女の姿がどこにもない。
「分かりません。が、おそらくレプリカを見付けたのではないかと。」
「サルスも聖も紅奈もいない。それに…。」
珍しくカルサの言葉が途絶えた。不思議に思い千羅は彼を呼ぶ。