光の風 《風神篇》後編-6
「魔物は入れない。この結界はオレが出て完成する。後は頼むぞ。」
近くにいる兵士にそう語りかけ、カルサは部屋の外に出ていった。その後のざわめきを静める兵士の声が背中に伝わる。
部屋の中にはレプリカもサルスもいなかった。さらには聖も紅奈もいない。次々に得られる情報はカルサの頭の中で組み立てられていく。
さっきまで魔物で溢れていた民の部屋周りの廊下も静けさを取り戻していた。千羅とリュナの力だと安易に想像できる。
遠くに千羅の姿は見えるが、リュナの姿はなかった。
「陛下!!」
カルサの存在に気付いた兵士が近寄ってきた。息が上がり、明らかに体力が奪われている。
「無事か?」
カルサの前で膝をつこうとするのを止めながら話しかけた。汚れた服、傷ついた体、兵士の姿を見ているとカルサはいたたまれなくなった。
次第に眉間にしわがより、厳しい顔つきになっていく。
「陛下、ご無事ですか?」
兵士が切羽詰まったようにカルサに話をしてきた。意外な状況に少し戸惑いながらも返事をする。
「ああ。私より…。」
「陛下、失礼致します。」
何かに気付いた兵士はカルサの言葉を遮り、カルサの前身頃を隠していたマントをめくった。
そこにあったのは肩から脇腹にかけての大きな傷。血がたくさん滲み出ている、痛くないはずがない。兵士は複雑な表情を見せた。
「嘘ばかりを。」
苦笑いし、マントから手を離し頭を下げた。そして自分のズボンのサイドポケットから箱を取り出し蓋を開ける。
カルサの前に差し出されたのは箱の中にあった白い布だった。
「どうぞこれをお使い下さい。」
それは応急手当て用の包帯だった。この包帯でカルサ自身の怪我の手当てをしてほしいという、兵士の主君を思う気持ちが大いに表れていた。
カルサの胸の内が熱くなる。
カルサは箱から白い布を取出し握りしめ、胸元にあてた。
「ありがとう、苦労をかける。」
囁くように語りかけた声は少し震えていたような気がした。兵士はゆっくり首を横に振り、いえ、と短く答える。
カルサはポケットから2つ程小さな球を取出し、箱を差し出したままの兵士の手を取って上に乗せた。兵士は思わず顔を上げる。
そこには優しく微笑むカルサがいた。
「これはオレの力を込めた光玉だ。」
「陛下、そんな!」
もったいない。カルサはその言葉を言わせなかった。口の前に手を差し出し、兵士の言葉を止めた。
「お前からは少し力を感じる。きっと光玉の力を使えるはずだ。これは治癒にも攻撃にも使える。」
手の上にある小さな、ビー玉程の物にカルサの力が入っている。兵士は不思議そうに見ていた。