光の風 《風神篇》後編-5
「私はこの国の王、カルサ・トルナス。今から私の力でこの部屋に結界を張る。」
威圧感に押され誰もが恐怖を忘れていた。自分の持つ感覚すべてが目の前にいる国王カルサに集中している。
彼はマントを羽織り、肩から脇腹にかけての大きな傷を隠していた。しかしそんな事も気にさせない、すべての視線が彼の目、彼の表情に注がれるように、十分に民達の心を掴んでいた。
ゆっくりと辺りを見回しこの場にいる民達の表情を目に焼き付け、その中のリュナの存在にも気付いた。二人の視線がぶつかり合う。
決してそらさない瞳にカルサはリュナの意志を感じ取ることができた。
「風神リュナ。」
カルサの言葉に誰もの視線がリュナに向けられた。
「はい。」
短い返事。
「外へ出て、応戦しろ。」
短い言葉、しかしそこには深い意味と想いが入っていた。受け取ったリュナの表情が明るくなる。
「はい!陛下。」
リュナのほほ笑みがカルサの気持ちを和ませる。リュナは一礼をして部屋の外に出ていった。
この動きをきっかけに民達も騒ぎ始める。少しずつ声が大きくなっていく、それを押さえるべくカルサは声を上げた。
「今から!」
カルサの声に一気に騒ぎはおさまった。再び注目はカルサ一人に注がれる。
「この部屋に結界を張る。いいか、けっして結界の外には出るな。」
カルサはさりげなく胸に付いた傷を指でなぞり血をつけた。その指で床に文字らしきものを書く。
「外からは何も見えなくなる結界だ。」
近くにいる兵士に軽く説明しながらカルサは準備を進めていく。やがて立ち上がり辺りをゆっくりと見回した。
誰もが不安そうな顔をし、救いを求めていた。カルサ兵士、女官の一人一人と目を合わせていく。
「お前、名前は?」
目が合っている兵士に呼びかけた。
「フライアです!」
「フライア、お前は西向きの扉の前で待機しろ。横にいるお前、名前は?」
カルサは一人一人に名を尋ね、指示をしていった。兵士、女官を問わずに一人のもれがないように確実に回していく。
カルサの声が部屋に響き、それは部屋の中の雰囲気も塗り替えていった。見とれてしまうほど迷いもなく、淡々と指示をしていく。ちゃんと自らの役割を認識した兵士達も迷いなく自分の持ち場についていった。