光の風 《風神篇》後編-4
「分かったな、リュナ。」
カルサの言葉にリュナは何も応えられなかった。ただカルサだけを見ているリュナを置いて、カルサは先に進み始めた。走り去っていくカルサの後ろ姿をただリュナは見ている。
リュナは完全に立ち尽くしていた。
遠くから闘志に満ちた声が響く、叫び声も響く。火が、煙が辺りに立ちこめる。
この城は戦場になってしまった。
力なくたれていた手に力が入っていく。リュナはゆっくりと強く拳を握った。もう一度気持ちを奮い立たせる。
強く。
顔を上げ、一歩踏み出そうとした瞬間だった。風がリュナの横を駆けていく。
「え?」
思わずこぼれた疑問符の声、風は通り過ぎもう見えなかった。妙な胸騒ぎを覚える。
「また…この風…。」
気にはなる、しかしリュナは後ろ髪をひかれる思いでカルサの後を追って走った。
民の部屋に近づいていく、進めば進むほど声が大きくなっていった。人々が騒ぎ、また兵士達の戦う声や魔物のうなりがぶつかり合う。
カルサは?
走り近づいていく中でリュナはカルサの姿を探した。目の前にはいない。
リュナは腕を振って懸命に民の部屋に向かって走った。この廊下のつきあたりを曲がれば民の部屋へと続く廊下に入る。
いくつもある扉をすべて、兵士達が盾となり守っていた。中に見覚えのある人物がいる。
「千羅さん!?」
誰よりも早く、誰よりも確実に千羅は魔物を倒していった。リュナに気付いた千羅は叫ぶ。
「中へ!」
リュナは頷き、戦場を走りぬけ扉を開いて急いで中に入った。
部屋の中は不安に満ちていた。人々は救いを求め、子供は泣き叫び混乱している。
結界が破られていた。
リュナは辺りを見回しカルサを探す。小さい声でカルサの名前を何回も呟いた。
「落ち着け!!」
広い部屋中に響く程大きな声が人々の動きを止めた。誰もが声の主へと目を向ける。
それはリュナも同じだった。声の主は彼女が探していたもの。
「カルサ。」
高貴なオーラを身にまとい、上に立つ者の顔をしたカルサが立っていた。