光の風 《風神篇》後編-2
「カルサ…私、魔物なの?」
久しぶりにカルサに向けられた目は潤んでいた。信じられない言葉が真実なら、もしそうだったら。
「私がセリナ?」
不安がどんどん大きくなって、自分ではどうしようもなくなった。取り乱し始めたリュナをカルサは彼女の両肩を掴む事で押さえる。
「あの人言ってた。セリナを探してるって、私の本当の名前を聞いてきた!」
「リュナ。」
落ち着かせるように彼女の名前をゆっくり呼ぶ。リュナは額に拳をあてて取り乱しそうになる自分を押さえようとした。息も荒い。
「私は魔物なの?カルサ。」
彼女自身の手でリュナの表情が見えない。
「カルサは本当の事しか言わない。そうなのよね!?」
顔を上げたリュナの目は、まるで助けを求めるようにカルサを見ていた。
「リュナ。」
「セリナもきっと私の事なんでしょ!あの人はそれを求めてる、この襲撃だって私の…っ!!」
「リュナ!!」
リュナの勢いはカルサによって止められた。大きく開いた瞳を捕らえるのは真っすぐな金色の瞳、カルサはリュナだけを見ていた。
「まだセリナがリュナと決まった訳じゃない。」
低く落ち着いたカルサの声はリュナの中に深く染み込んだ。それでも、信じられない。リュナは首を振りながら目に涙を浮かべた。
「人の名前か、場所か、あるいは力か。もしかしたら称号かもしれない。」
「力…?」
リュナの問いかけにカルサは頷いた。
「オレはセリナを知らない。」
カルサの言葉は彼女にとって意外な事で、無意識に疑問符を口にしていた。
リュナの腕を掴んでいた手を緩め、ゆっくりと離していく。
「リュナの事も、さっき言われたばかりだ。」
生温い風が二人の横を駆けていく。
「…誰に?」
「リュナの事はレプリカに聞いてみた方が良さそうだ。」
リュナの問いには答えずにカルサは話を続けた。リュナは戸惑いながらも軽く頷く。
リュナの目線に合わせるために屈んでいた体を起こし、城内を見下ろした。
人と魔物が戦い、いくつもの体が地面に倒れている。土煙は火の粉が舞っていた。どこかで火災が起きて、それに対処がしきれていないのだろう。
「こんな…。」
思わずこぼれた嘆きの言葉を隠すように、リュナは自分の口を手で覆った。