やっぱすっきゃねん!UG-1
「整列!」
朝 7時。 直也の号令に部員達は一斉にグランドに集まり、学年別に並んだ。
今日から入部テストの稲森は、列の一番後に並んでいる。
直也のとなりに立つ山下が稲森を見た。
「稲森。 こっちに来て挨拶しろよ」
稲森が顔色を変える。
「何でだよっ!」
「オマエ、今日から皆と一緒に練習をやるんだろ?だったら挨拶くらいするのは当然だろ」
「クッ…」
山下の冷静な反論に昨日、永井に言われた事が稲森の頭をよぎる。
仕方なく列の前へと向かうと、唇を噛みしめて俯き黙っていたが、やがて顔を上げると口を開いた。
「…い、稲森…省吾…です。 よろしく…」
それだけ言って、列の後へと戻ると再び俯く。
その様子に山下は頷くと、稲森から視線を外して部員達を見た。
「それじゃランニングやるぞ!ピッチャーは10周、他は 5周だ」
部員達は軽い準備運動の後、いつものように最初から速いペースでグランドを走り出す。
(こんなペースで続くのか? )
稲森は、そのスピードに驚いたが必死に付いて行こうとする。 その姿を見て直也は笑みを浮かべた。 しかし、毎周少しづつ遅れだし、ついには 1年生にも抜かれてしまった。
「ラストッ!」
グランドには直也に橋本淳、それに稲森のピッチャーだけが走っていた。
直也と淳は最後の 1周を全速に近い速さで駆けて行く。
(…あいつら…バケモンか…)
稲森もペースアップしようとするが、身体はついて行けず、歩くほどのスピードで何とか走っている。
直也達がゴールした時、稲森とは 1周近い差がついていた。
「…はっ!はっ!…よ…ようやく…はぁ……」
ゴールした瞬間、稲森は激しい息遣いを繰り返し、その場に倒れ込んだ。 直也は息を整えながら近付くと、
「…しばらく休んだら…皆んなの円に入れ…次はストレッチだから…」
そう言って円の方へ駆けて行った。 稲森は身体を横たえ、部員達が作る円に目をやる。
「…はぁ…あいつは…」
見つめる先には、ストレッチをやっている佳代の姿があった。
(…クソッ…オレは女にも負けてんのか…… )
自身のふがいなさに腹を立てる稲森。
(…こんなとこで負けてられるかよ… )
すぐに身を起こすと、ストレッチの円に加わった。
その後も厳しいトレーニングは続く。 腕立てに腹筋、背筋、スクワットなど、全くボールを使わない体力強化。 最後に素振りを 100回こなすと朝練が終わる。