やっぱすっきゃねん!UF-4
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「初めてなんで、結構疲れるわね」
夜 7時。 練習を終えた葛城は、佳代と一緒に保健室で着替えていた。
「最初はキツかったですけど、最近はようやく慣れました」
佳代はユニフォームを脱ぎながら葛城に答える。
「でも、これからはさらに楽しいかも…」
ジャージに着替え終え、脱いだユニフォームをバッグに詰め込む佳代は、つい気持ちを漏らす。
「今の、どういう意味?」
「その…ずっと独りで着替えてたから、これからは先生と一緒なら少しは嬉しいかなって…」
佳代はそう言って笑顔を見せる。 すると、葛城も微笑んだ。
「こちらこそよろしくね。 そのかわり、遅れそうになったら容赦無く怒るわよ」
佳代は顔を曇らせた。
「…それも困るなぁ……」
次の瞬間、 2人は声を挙げて笑った。
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11月も終わる晩秋。 昼間はまだ暖かく感じるが夜はかなり冷え込む。 おまけに雲ひとつ無く、月が凍てつくような明かりで夜空を照らしている。
佳代は着替えを終えて直也と学校の正門へと向かっていた。
「山下はずいぶん嫌がってたな。 いきなりキャッチボールのやり方にケチつけられたって…」
直也が葛城の事を切り出すと、佳代は頷きながらも説得する。
「でも、葛城コーチも元キャッチャーなんだし、 1番指導し易いんじゃない?」
「確かにそうだろうけど……」
納得しながらも、まだ何か言い足りない直也。 佳代はため息を吐いた。
「…とにかく間違った指導じゃないんだし、付いていかないと…大会まであと 7ヶ月余りしかないし、 4月には練習試合も始まるだろうし…」
正門が近付く。 佳代はそこまで言うと直也を見た。
「そんな事よりさ。 来週には期末始まるけど大丈夫なの?」
直也は天を仰いだ。
「何とかなるだろ…」
その曖昧な返事に佳代は呆れた。
「何、呑気な事言ってんの!アンタしかピッチャー居ないのに、成績悪かったら練習出来ないんだよ。 分かってる?
オマケに勉強教えてくれる有理ちゃんにいよいよ嫌われるよ!」
「分かったよ。 ちゃんとやるよ…」
正門を過ぎた辺りで 2人は別れた。 佳代は自転車に跨ると右へと折れた。
「じゃあ、また明日」
「ああ、お疲れさん」
直也は左に曲がると軽く手を振った。
佳代は勢い良く自転車をこいで夜道に消えた。 それを見届けた直也は踵を返すと自宅へと駆けて行った。