やっぱすっきゃねん!UF-3
「アナタはキャッチャーなんだから、キャッチボールの時からキャッチャーの投げ方をやりなさい。
捕ってからの動作を早くして、短いステップで小さいテイクバックに大きなスローイングで」
その迫力は山下に何も言い返させない。 そのままキャッチボールを再開すると、山下は相手からのボールを掴んだ瞬間、試合と同様に素早い動作で相手にボールを投げ返した。
それを見た葛城は山下を見つめて何度も頷く。
「そう、今の感じよ。 元々肩は良いんだから、動作にもっと磨きをかけてね。 そうすれば、誰も盗塁しようなんて思わなくなるわ」
素早い動きを繰り返す内、山下の息は上がり、こめかみ辺りから汗が流れ出る。
「息が切れてきたら、休憩を挟みながら続けるのよ」
しばらく見続けていた葛城は、そう言うと山下から遠ざかって行った。
他に、指導が必要な部員はいなかったが、葛城はある部員の後で足を止めた。
佳代だった。
1年生の田畑とキャッチボールをしている。 通常、その選手の力量を知るのにはキャッチボールを見ればだいたい分かるのだが、投げ方や捕り方を見た葛城は佳代の技量は高いと思った。 青葉中でなかったらとっくにレギュラーだったろうと。
(これで真剣さが足りないなんて…… )
その時、葛城の存在に気づいた佳代はおそる々訊いた。
「あの〜、コーチ何か?」
葛城は、佳代の声で我に返った。
「…な、何でもないの!ちょっと考え事をしてたんで…」
そう言ってワイパーのように両手を動かしていたが、ふと優しげな目をすると佳代に言った。
「澤田さん。 保健室で見るアナタはいつも忙しそうに見えたけど、ようやく分かったわ」
「…はぁ…」
佳代には葛城の言わんとする事が分からかった。
「これからも頑張ってね。 応援してるから」
結局意味は分からないが、葛城の言葉に佳代は満面の笑みを向けた。
「ハイッ!ありがとうございます!」
「それじゃ…」
葛城は軽く手を振ると、永井の待つグランド隅へと戻って行った。 その姿をしばらく見ていた佳代は思い出したように、再び田畑とのキャッチボールを始めた。