やっぱすっきゃねん!UF-11
「…じゃあ付いて来て。 監督に紹介するから…」
佳代は手招きして男の子を連れてグランドに向かった。
途中、男の子が話掛けてくる。
「ところで、アンタはマネージャーでもやってんのか?」
「…これでも選手だけど……」
「女がぁ?マジかよ!」
そう言って、男の子は大きな笑い声を挙げた。 さすがの佳代もこれには怒った。
「…何でアナタみたいな初対面の人間にそこまで言われなきゃいけないの!」
「そんなに怒んなよ。 冗談じゃないか」
佳代は振り返って男の子を睨み付けた。
「人を傷付ける事を冗談とは言わないよ! バカにしてるだけだ…」
それだけ言うと後を無視して歩き出してしまった。
───
「どうしたカヨ?遅れてるじゃないか」
「すいません!監督、入部希望者を連れて来ました」
永井の言葉に佳代は深々と頭を下げると、荷物を置いてグランドへと走って行った。
「入部希望者?」
永井と葛城が振り返ると先ほどの男の子が立っていた。
「君はなんだ?」
永井が話掛けると、男の子はニヤニヤと笑いながら近づいて来た。
「稲森って言います。 今日、転校したばっかで勝手が分からなくて。 野球部に入れてもらえねぇかなと思って…」
永井の顔に険しさが宿る。 そばでやりとりを聞いている葛城も、あまり良い顔をしていない。
再び永井が聞いた。
「何処の学校から転校して来たんだ?」
「千葉の明林中です」
稲森はさも自慢気に言い放つ。 永井も知っている。 そこは今年の全国大会で優勝した学校だった。
「そこで野球部に入ってたのか?」
「ええ、ピッチャーをやってましたよ」
いちいち鼻に付く言い回し。 永井が最も忌み嫌うタイプ。
「…分かった。 明日から 1週間入部テストを行う。朝 7時にユニフォームを着てグランドに出てこい」
稲森は驚きの表情を見せた。
「…に、入部テストって、明林中でピッチャーやってた人間にか?!」
永井は険しい目で言い返す。
「だから何だ?何処の出身だろうとテストをやるのがウチのやり方だ。 それとも、出来ないって言うのか?」
稲森は苦々しい表情で永井を睨んでいたが、やがて、
「分かったよ!やってやるよ」
悔しげに言葉を吐き出す。
永井の言葉が、さらに追い打ちを掛ける。
「ついでに言うが、テスト中にそのナメた言葉遣いも直しておけ。 ウチは野球の技量よりも礼節を重視しているチームだ。 キチンと挨拶も出来んヤツは試合には使わんからな…」
稲森は口を真一文字に結び俯いていたが、何も言わずに頭だけ下げて永井の前から立ち去った。