僕らの日々は。〜ある日の僕ら。〜-2
▼▼
「よぉ、沖春。ギリギリだな」
「おはよ、安良」
学校に着くなり、安良が声をかけてきた。
深峰 安良(ふかみね やすら)。中学の頃からの友人である。
「あれ?……狭はまだ来てないのか?」
「あぁ。ま、アイツは遅刻だろ」
「だな」
そんな事を言っているうちにチャイムが鳴り、担任が入って来た。
いつも通りにホームルームが始まり、出席を取り始めた。
「山内ー、柳沢ー、遊月ー……ん?遊月は来てないのか?」
と、その時。
ものすごい勢いで教室の戸が開いた。
「ギリギリセーフ!」
「アウトだ馬鹿者」
「マジすか!?」
「マジだ」
今日も元気に入って来るなり担任とそんなやり取りを交わした遊月 狭(ゆづき はざま)は、しかし不敵に笑い、
「甘いっすよ先生。……これを見て下さい」
「ん?なんだそりゃ……腕時計じゃないか」
「そう、これは俺の腕時計です。……そして」
言いつつビシッと腕時計を指差し、
「この時計では、まだ一分の余裕が!」
「残念だが学校はお前の時計ではなく標準時を基準に動いている。……遊月、遅刻な」
撃沈。
狭は僕の隣の席に着くと、
「……時代が、俺のスピードについて来れなかったって事……か」
そんな事を呟き、
「いや、カッコいい事言ってるつもりかもしれないとこ悪いが……どっちかっつーと遅れてるのはお前だからな?」
呆れたような安良にツッコまれたのだった。
▼▼
――三限目。
授業は化学。
班を組んでの中和滴定の実験である。
「……さて、実験を始めるワケだが。……ときに沖春よ」
「ん?何さ、狭?」
狭はフラスコを一つ持ち上げ、真剣な顔で、
「俺にはどうもこの『三角フラスコ』ってのが理解できないんだ」
「そうか。俺にはお前の発言が理解できねぇよ」
即座に安良がツッコむ。
「いや、考えてもみてくれ。『丸底フラスコ』ってのは、当然名前の通りに底が丸いワケだ」
「それがどうしたんだよ?」
「ほら、三角フラスコも底が丸いんだよ!三角フラスコなんだから底が三角形であるべきだと俺は思うんだが、そこのとこどう思う?」
「そうだな、どうでもいいからとりあえず実験を始めようと思う。沖春、塩酸取ってくれ」
「オッケー」
「ひ、ひどっ!なぁ、無視すんなよー!」