15cm(後編)-5
「おはよ!」
いつもは休み明けのせいか、遅刻ぎりぎりの月曜日。
今日は少し早めの登校。
「渡辺!おはよ!」
同じく、いつもは遅刻ぎりぎりの七瀬も、今日はすでに席に着いている。
「…珍しく早いじゃん。」
平静を装って七瀬の隣の席につく。
「渡辺こそ、早いんじゃないの?」
七瀬はいつもと何も変わらない。
あんまり普通すぎて、一昨日の夜のことは、夢だったんじゃないかと思ってしまう。
――土曜の夜、私達は手を繋いで駅まで歩いた。
その間、七瀬も私も何も話さなかった。
何を話せばいいのか分からなかった。
駅に着いて、分かれるとき、七瀬が口を開いた。
『今日は急にごめん!
…驚いたかもしんないけど、俺、渡辺と付き合いたいと思ってる!』
もちろん私は、戸惑って返事どころか、うまく言葉も出ない。
『……今すぐ答えを出さなくていいから、考えてみてくんないかな?』
そんな七瀬の言葉に対して、コクンと頷くのが精一杯。
『良かった…、ありがと。
……じゃあ、また月曜な!』
七瀬は手を振りながら、奥のホームへ続く階段を上っていった――
一限の教科書を用意しながら思い出していると、机の上にポンッとノートが置かれた。
…この間、七瀬に貸していたノートだ。
ちらっと隣を見ると、すでに七瀬は友達と楽しそうにしゃべっていた。