Black mailU-9
「どうだったの?」
待ちきれないと言った口調の恭香。 対してターナーは内緒話でもするように語った。
「君の調べた通りだったよ。 ドバイとハバナにあった」
「やっぱり…」
「どういう事かは知らんがミスター・イイジマに進言してやれ。 これが公になったら、またジャパン・バッシングに成り兼ねない」
友人として彼女の事を心配してくれたターナーだが、恭香は一笑に附した。
「その件だけど、今の情報。 ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストにリークしてくれる?」
恭香の依頼に驚きの声を挙げたターナー。
「な、何を考えてるんだ!君の言葉とは思えないよ…」
「そう…強いて言うなれば、〈愛の裏返し〉かしら…」
「話をはぐらかさないでくれ。 何故、ヤマト証券を売るような真似をするんだ。 キョウカ!?」
受話器の向こうではターナーのダミ声が鳴り響いていたが、恭香は〈貴方もクライアントに教えてあげなさい〉と伝えた後、〈じゃあ頼んだわよ〉とだけ言って電話を切ってしまった。
───激震はすぐに訪れた。
日本時間7月4日20時。 ワシントン・ポスト紙とニューヨーク・タイムズ紙は、〈閉鎖的保身再び〉というタイトルでヤマト証券の記事をスクープとしてスッパ抜いた。
記事によれば、ヤマト証券は石油、穀物先物取引で得た利益の一部を、タックス・ヘブンと呼ばれるドバイとハバナに作ったダミー会社の口座にプールしていただけでなく、自分達へ影響が及ぶのを避けようと、与党大物政治家へ献金していたとの事だった。
記事を読んで1番驚いたのは、当のヤマト証券社員達だった。
もちろん岡野も同じだ。 翌日から、自体収拾に乗り出した。
そんな折、事業本部に1本の連絡が入る。
「本部長。 飯島社長がお呼びですが…」
「社長が?」
女性社員に対して怪訝な表情を見せる岡野。 だが彼女は〈件の事で聞きたい事があるから来てくれと言っている〉と言うだけだった。
仕方なく岡野は飯島の部屋に向かった。
「社長。 岡野です」
中から飯島の呼ぶ声が聞こえてきた。
「失礼いたします。 社長。 如何なされましたか…」
「ああ、岡野君。 昨夜の事件についてだが…」
「その件につきましては事態収拾の最中でして、何処から出たデマなのかを現在、調査中です…」
必死に言い訳する岡野を飯島が制した。
「…違うんだよ岡野君。 あの話は全て本当なんだ」
岡野は言葉を失った。