Black mailU-8
「…まあ、派閥の調整に手間取ったからね…」
「しかし、これで名実共にヤマト証券のトップとなられたわけですから、これからは思う存分、大ナタをふるえますね」
「その事なんだが、君をそろそろ本社付きにしようと思うんだ…」
飯島の提案に驚きの表情を浮かべる岡野。
「…私が本社勤務に…ですか?」
「ああ、そうだ。 一昨年から君は私のために尽力してくれた。 そこで、本部長待遇で迎えようと思うのだが…」
飯島はそう言って、岡野の反応を待った。
「ありがとうございます!社長のご期待に応えられますよう努力致します!」
岡野は両手を畳に付くと、飯島への感謝の意を表す。
「じゃあ、この話はこれで終りだ。 新しい体制になったら、君にはこれまで以上に働いてもらうから覚悟しといてくれ」
飯島はそう前置きすると、話をそこで断ち切り、お互いの前途を讃えて祝杯を交わすのだった。
───
数日後。 JP・モ〇ガン日本支社に1本の連絡が入った。
「ボス。 ニューヨーク本部のデット・ターナーからファックスが入ってます」
恭香は部下が持ってきた書類に目を通すと、受話器を取って連絡を入れた。 数コールの後、デット・ターナー本人が受話器に出た。
「やあ、キョウカ。 変わらない君のテノールが聞けて嬉しいよ」
開口一番。 ターナーのダミ声が恭香の耳に飛び込んで来る。
「私こそ貴方の南部訛りの英語を久しぶりに聞けて嬉しいわ。 デット」
「ククッ…まったく、手厳しいなぁ…」
〈ハードワーカー〉の異名を取るターナーも形無しと言ったところか。
「ところで。 本業が忙しそうね?」
「こっちじゃ企業の不備はすぐに訴訟問題に発展するだろ?おかげでクライアントは増える一方さ」
恭香の脳裏に、ニューヨーク時代の事が思い浮かぶ。 彼女はターナー達と共にリスク・コンサルタント業に明け暮れていたのだ。
「ビジネスマンがビジネスに奔走する。 結構な話ね」
「ところで、先日の頼まれ物なんだが…」
それまでオープンな雰囲気だったターナーの口調がオフィシャルな感じに変わった。